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iPS細胞由来の薬?パーキンソン病治療薬アムシェプリ
公開. 更新. 投稿者: 83 ビュー. カテゴリ:パーキンソン病.この記事は約6分15秒で読めます.
目次
パーキンソン病治療薬アムシェプリ

2026年3月、パーキンソン病に対する再生医療等製品「アムシェプリ」が承認された。
一般名はラグネプロセル。
アムシェプリは、非自己iPS細胞から作製した「ドパミン神経前駆細胞」を患者の脳内に移植するという、これまでのパーキンソン病治療薬とはまったく異なる治療法である。
「iPS細胞を使った薬」と聞くと、iPS細胞そのものを患者に投与するようなイメージを持つが、そういうわけではない。
では、アムシェプリとはどのような治療なのだろうか。
パーキンソン病ではドパミン神経が減っている
パーキンソン病では、中脳の黒質に存在するドパミン神経細胞が減少し、線条体で働くドパミンが不足する。
その結果、
- 動作が遅くなる
- 手足が震える
- 筋肉がこわばる
- 姿勢を保ちにくくなる
といった運動症状が現れる。
そのため従来の薬物療法では、レボドパによって不足したドパミンを補ったり、ドパミン受容体を刺激したり、ドパミンの分解を抑えたりすることで症状を改善する。
しかし、これらの薬によってドパミン神経細胞そのものが増えるわけではない。
アムシェプリは、ここが従来の治療薬と大きく異なる。
アムシェプリは「ドパミンを作る細胞」を移植する
アムシェプリは、健康成人の末梢血から作製したiPS細胞をもとに、ドパミン神経になる手前の段階である「ドパミン神経前駆細胞」へ分化させた再生医療等製品である。
この細胞を定位脳手術によって、パーキンソン病患者の脳の「被殻」に移植する。
移植されたドパミン神経前駆細胞は、その後ドパミン神経細胞へと分化・成熟し、ドパミンを産生することが期待されている。
つまり、かなり大ざっぱにいえば、
➡レボドパ:ドパミンの「材料」を補う
のに対して、
➡アムシェプリ:ドパミンを作る「細胞」を補う
という違いがある。
パーキンソン病の治療の考え方を大きく変える治療法といえる。
自分のiPS細胞を使うわけではない
もう一つ重要なのが「非自己iPS細胞由来」という点である。
患者本人から細胞を採取して、その患者専用のiPS細胞を作るわけではない。
健康成人由来の細胞から作られたiPS細胞を利用して製造されている。
自分以外の人の細胞を使用するため「他家」の細胞移植ということになる。
患者ごとにiPS細胞を一から作製する必要がないため、あらかじめ一定品質の細胞を製造しておくことができる。
一方、他人由来の細胞を移植する以上、免疫反応への対策が必要になる。
アムシェプリとタクロリムス
アムシェプリの移植では、免疫反応を抑えるためにタクロリムスを使用する。
通常、移植日の朝からタクロリムスの内服を開始し、血中トラフ濃度をモニタリングしながら投与量を調節する。
目標トラフ濃度は通常5~10ng/mLで、拒絶反応が認められた場合には10~20ng/mLとする。
投与開始から1年を目安として、その後12週間かけて漸減・中止するが、必要に応じて投与期間を延長する。
「細胞を一度移植して終わり」という治療ではなく、移植後の免疫管理も重要になる。
薬剤師としては、アムシェプリそのものよりも、むしろ併用されるタクロリムスの管理に関わる可能性のほうが高いかもしれない。
どのくらいの細胞を脳に入れる?
通常、成人には非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞として、片側あたり5.4×106個を目標として両側の被殻に移植する。
つまり片側約540万個、両側で約1080万個の細胞である。
単純に注射器で脳に注入するわけではない。
定位脳手術によって頭蓋骨に小孔を開け、片側につき3つの投与経路から、それぞれ複数箇所に分けて細胞を移植する。
そのためアムシェプリは「注射薬」というより、手術を伴う細胞移植治療と考えたほうがわかりやすい。
どんな患者に使う?
効能、効果又は性能は、
「レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病患者の運動症状の改善」
である。
したがって、パーキンソン病と診断されたら早期からアムシェプリを使用する、という位置づけではない。
レボドパなどによる既存治療を行っても十分な効果が得られない患者が対象となる。
また、実際の使用にあたっては最適使用推進ガイドラインなどに基づいて患者選択が行われる。
本当に症状は改善する?
承認のもとになった京都大学医学部附属病院の医師主導治験では、7人のパーキンソン病患者にiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞が両側の被殻へ移植された。
有効性を評価できた6人のうち、抗パーキンソン病薬を使用していないOFF状態での運動機能評価では4人に改善が認められた。
画像検査でも移植部位におけるドパミン産生の増加が確認され、移植細胞の生着が示された。
一方、この治験は少数例を対象とした非盲検・非対照試験であり、有効性が大規模な比較試験によって確立された段階ではない。
アムシェプリが「条件及び期限付承認」となっている理由の一つもここにある。
条件及び期限付承認とは?
アムシェプリは通常の本承認ではなく、「条件及び期限付承認」を受けている。
再生医療等製品は、患者数が少ないなどの理由から大規模な臨床試験を行うことが難しい場合がある。
そこで一定の安全性が確認され、有効性が推定される場合に条件と期限を付けて承認し、市販後にさらに有効性・安全性を検証する仕組みが設けられている。
アムシェプリについても、今後Phase 4試験によって有効性・安全性のデータをさらに集積し、本承認を目指すことになる。
したがって「iPS細胞によるパーキンソン病治療の有効性が完全に証明された」と捉えるのは早い。
現時点では、実用化への非常に大きな一歩を踏み出した段階と考えたほうがよいだろう。
腫瘍にならないの?
iPS細胞と聞いて気になるのが腫瘍化のリスクである。
iPS細胞には高い増殖能力があるため、未分化な細胞が残っていれば腫瘍を形成する可能性が懸念される。
そのためアムシェプリでは、iPS細胞をそのまま移植するのではなく、ドパミン神経前駆細胞まで分化させ、目的とする細胞を選別して製造する。
承認の根拠となった治験では、移植後24カ月までMRIなどによる評価が行われ、移植細胞の過剰増殖や腫瘍形成は認められなかった。
ただし、移植された細胞は長期間患者の体内に存在することになる。
長期的な安全性について今後も観察が必要なのは、通常の薬物治療とは大きく異なる点である。
アムシェプリの薬価は約5500万円
アムシェプリは2026年5月20日に薬価収載された。
薬価は、
18瓶1組:55,306,737円
である。
約5531万円という非常に高額な製品だ。
ただし、これは毎月使用する薬ではなく、細胞を脳内へ移植する再生医療等製品である。
単純に一般的な内服薬や注射薬と薬価だけを比較することはできない。
また、実際の治療では製品代だけでなく、定位脳手術や入院、移植後の管理なども必要となる。
すぐに一般の患者が治療を受けられる?
承認されたからといって、全国の病院ですぐに希望者が治療を受けられるわけではない。
条件及び期限付承認後は、製造販売後承認条件評価試験(Phase 4試験)が予定されている。
住友ファーマが2026年3月に公表した計画では、まずPhase 4試験に参加する患者への移植を行い、その後、試験の進行や本承認に向けた手続きを経て、治療施設や対象患者を拡大していく予定とされている。
「承認=一般診療として広く使えるようになった」と考えないよう注意が必要だ。
パーキンソン病治療は「薬を補う」から「細胞を補う」へ?
パーキンソン病ではこれまで、
・レボドパでドパミンを補う。
・ドパミン受容体を刺激する。
・ドパミンの分解を抑える。
といった薬物療法が中心だった。
アムシェプリは、それらとは発想がまったく違う。
・失われたドパミン神経細胞の代わりとなる細胞を脳に移植し、そこでドパミンを作ってもらう。
という治療である。
もちろん、アムシェプリによってパーキンソン病そのものが「治る」と証明されたわけではない。
対象患者も限られ、脳手術や免疫抑制療法が必要で、長期的な有効性・安全性についても今後の検証が必要である。
それでも、薬によって不足した物質を補う治療から、失われた細胞そのものを補う治療へ。
アムシェプリの登場は、再生医療が研究段階から実際の医療へ移りつつあることを象徴する出来事なのかもしれない。



