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白血球の分類から理解する「炎症」「感染」「薬剤アレルギー」
公開. 更新. 投稿者: 60 ビュー. カテゴリ:副作用/薬害.この記事は約3分22秒で読めます.
目次
白血球の分類から理解する「炎症」「感染」「薬剤アレルギー」

血液検査の CBC(Complete Blood Count)と白血球分画。
日常業務ではよく目にする数値ですが、
「好酸球0%」「好中球90%」「リンパ球低下」などの意味を、
自信を持って説明できる医療者は意外と多くありません。
特に薬剤師にとって、この白血球分画は感染 vs 薬剤アレルギーの鑑別に重要なヒントになります。
白血球の分類・染色学的由来 → 病態 → 診断 → 薬剤性との関連
などを勉強していきます。
白血球の分類は「染まり方」で決まった
白血球は顆粒球と非顆粒球に分かれ、顆粒球は
酸・塩基いずれに染色されやすいかで命名されました。
| 種類 | 染まり方 | 使用染料 | 色 | 由来 |
|---|---|---|---|---|
| 好酸球 | 酸性染料に強く染まる | エオジン | 赤橙色 | 酸好き=好酸 |
| 好塩基球 | 塩基性染料に強く染まる | ヘマトキシリン等 | 青紫 | 塩基好き=好塩基 |
| 好中球 | 中間的 | 両者 | 淡紫 | 中間=好中 |
この命名は細胞の機能ではなく染色性に基づく歴史的命名であり、細胞の役割は後からわかったという点が面白い。
白血球の正常値と「異常」の意味
| 白血球種 | 正常割合 | 正常数(目安) |
|---|---|---|
| 好中球 | 50〜70% | 2000〜7000/µL |
| リンパ球 | 20〜40% | 1000〜4000/µL |
| 単球 | 1〜10% | 100〜1000/µL |
| 好酸球 | 0〜4% | 0〜500/µL |
| 好塩基球 | 0〜1% | 0〜100/µL |
好酸球の正常値は「0でもいい」
好酸球は“増えると問題になる細胞”で、
減少しても臨床的問題が出にくいという特徴があります。
・ステロイド投与中
・ストレス
・敗血症
などでほぼ 0%になることもあるが、治療対象にはならない。
白血球が教えてくれる疾患のみかた
A. 好中球 ↑ → 「細菌感染 or 組織炎症 or ステロイド影響」
| 病態 | 理由 |
|---|---|
| 細菌感染 | 好中球が最前線 |
| 膿瘍・虫垂炎など炎症 | 炎症性サイトカインによる動員 |
| ステロイド投与 | 血管内から組織への移動抑制により“見かけ上”増加 |
好中球↑=感染とは限らない(ステロイド判読注意!)
B. 好酸球 ↑ → 「アレルギー or 寄生虫 or 薬剤」
| 主原因 | 具体例 |
|---|---|
| アレルギー | 気管支喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症 |
| 寄生虫感染 | 回虫、糞線虫、アニサキス |
| 薬剤性 | 抗菌薬(ミノサイクリン等)、抗てんかん薬、NSAIDs、メトトレキサートなど |
薬剤性は最も疑うべき原因の一つ
→ 薬歴確認が診断に直結
C. 好塩基球 ↑ → 「血液腫瘍(特にCML)」
好塩基球が増える=CMLを強く疑う
・未分化増殖のサイン
・CML患者では特徴的に上昇
好酸球増多と見間違いやすい(同じ顆粒球)
D. 「末梢値より重要」なケース:好酸球性肺炎
血中好酸球が正常でも、肺や組織に好酸球浸潤が起きていることがある。
例:
・好酸球性肺炎(EP)
・旧分類:PIE症候群
→ 診断にはBAL(気管支肺胞洗浄液)や画像、薬歴、寄生虫歴も見る。
好酸球増多=肺炎が好酸球性とは限らない
→ 重要なのは臓器障害の有無
好酸球0%は危険なのか?(ファセンラの例)
IL-5受容体α抗体 ベンラリズマブ(ファセンラ)
→ ADCC作用により好酸球をほぼ完全に消失させる。
・投与後24時間以内に血中好酸球がほぼ0に
・その後も維持される
しかし、重篤感染症の増加は認められていない。
なぜ0でも困らない?
・好酸球は寄生虫や一部感染症では重要だが
・多くの感染症は 好中球・リンパ球など他の免疫が代償するため
・欠乏だけで日常生活で問題になることは稀
“好酸球は悪者ではないが、日常生活では欠けても支障が少ない”
薬剤性過敏症と白血球分画
薬剤性アレルギーの典型所見:
| 所見 | 病態 |
|---|---|
| 好酸球↑ | T細胞性薬剤アレルギー(DRESSなど) |
| 発熱・発疹 | Ⅳ型過敏反応 |
| 肝障害 | T細胞・好酸球性浸潤 |
| リンパ節腫脹 | 全身免疫活性化 |
特に DRESS(薬剤性過敏症症候群)では、
・好酸球増多
・肝障害
・リンパ節腫脹
がほぼセット。
CBC+好酸球、肝機能、薬歴のセット確認が重要
薬剤師の実践ポイントまとめ
| 状況 | 判断ポイント | 行動 |
|---|---|---|
| 好中球↑ | 感染? それともステロイド? | 処方歴をチェック |
| 好酸球↑ | アレルギー? 薬剤? 寄生虫? | 新規薬・輸入食品・渡航歴 |
| 好塩基球↑ | CML疑い | 速やかに医師に共有 |
| 好酸球0% | ステロイド or ファセンラ等生物学的製剤 | 過度に心配不要 |
白血球分画は、単なる数字列ではなく、
感染・炎症・薬剤性反応を読み解く“免疫のカルテ” です。
・好中球は感染とステロイドを教えてくれる
・好酸球は薬剤アレルギーの目印になる
・好塩基球は血液腫瘍の警告灯
血液検査を読む薬剤師が増えるほど、
薬害も不要な抗菌薬も減らせるはずです。




