2025年12月21日更新.2,695記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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白血球の分類から理解する「炎症」「感染」「薬剤アレルギー」

白血球の分類から理解する「炎症」「感染」「薬剤アレルギー」

血液検査の CBC(Complete Blood Count)と白血球分画。
日常業務ではよく目にする数値ですが、
「好酸球0%」「好中球90%」「リンパ球低下」などの意味を、
自信を持って説明できる医療者は意外と多くありません。

特に薬剤師にとって、この白血球分画は感染 vs 薬剤アレルギーの鑑別に重要なヒントになります。

白血球の分類・染色学的由来 → 病態 → 診断 → 薬剤性との関連
などを勉強していきます。

白血球の分類は「染まり方」で決まった

白血球は顆粒球と非顆粒球に分かれ、顆粒球は
酸・塩基いずれに染色されやすいかで命名されました。

種類染まり方使用染料由来
好酸球酸性染料に強く染まるエオジン赤橙色酸好き=好酸
好塩基球塩基性染料に強く染まるヘマトキシリン等青紫塩基好き=好塩基
好中球中間的両者淡紫中間=好中

この命名は細胞の機能ではなく染色性に基づく歴史的命名であり、細胞の役割は後からわかったという点が面白い。

白血球の正常値と「異常」の意味

白血球種正常割合正常数(目安)
好中球50〜70%2000〜7000/µL
リンパ球20〜40%1000〜4000/µL
単球1〜10%100〜1000/µL
好酸球0〜4%0〜500/µL
好塩基球0〜1%0〜100/µL

好酸球の正常値は「0でもいい」
好酸球は“増えると問題になる細胞”で、
減少しても臨床的問題が出にくいという特徴があります。

・ステロイド投与中
・ストレス
・敗血症
などでほぼ 0%になることもあるが、治療対象にはならない。

白血球が教えてくれる疾患のみかた

A. 好中球 ↑ → 「細菌感染 or 組織炎症 or ステロイド影響」

病態理由
細菌感染好中球が最前線
膿瘍・虫垂炎など炎症炎症性サイトカインによる動員
ステロイド投与血管内から組織への移動抑制により“見かけ上”増加

好中球↑=感染とは限らない(ステロイド判読注意!)

B. 好酸球 ↑ → 「アレルギー or 寄生虫 or 薬剤」

主原因具体例
アレルギー気管支喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症
寄生虫感染回虫、糞線虫、アニサキス
薬剤性抗菌薬(ミノサイクリン等)、抗てんかん薬、NSAIDs、メトトレキサートなど

薬剤性は最も疑うべき原因の一つ
→ 薬歴確認が診断に直結

C. 好塩基球 ↑ → 「血液腫瘍(特にCML)」

好塩基球が増える=CMLを強く疑う

・未分化増殖のサイン
・CML患者では特徴的に上昇

好酸球増多と見間違いやすい(同じ顆粒球)

D. 「末梢値より重要」なケース:好酸球性肺炎

血中好酸球が正常でも、肺や組織に好酸球浸潤が起きていることがある。

例:
・好酸球性肺炎(EP)
・旧分類:PIE症候群

→ 診断にはBAL(気管支肺胞洗浄液)や画像、薬歴、寄生虫歴も見る。

好酸球増多=肺炎が好酸球性とは限らない
→ 重要なのは臓器障害の有無

好酸球0%は危険なのか?(ファセンラの例)

IL-5受容体α抗体 ベンラリズマブ(ファセンラ)
→ ADCC作用により好酸球をほぼ完全に消失させる。
・投与後24時間以内に血中好酸球がほぼ0に
・その後も維持される
しかし、重篤感染症の増加は認められていない。

なぜ0でも困らない?
・好酸球は寄生虫や一部感染症では重要だが
・多くの感染症は 好中球・リンパ球など他の免疫が代償するため
・欠乏だけで日常生活で問題になることは稀

“好酸球は悪者ではないが、日常生活では欠けても支障が少ない”

薬剤性過敏症と白血球分画

薬剤性アレルギーの典型所見:

所見病態
好酸球↑T細胞性薬剤アレルギー(DRESSなど)
発熱・発疹Ⅳ型過敏反応
肝障害T細胞・好酸球性浸潤
リンパ節腫脹全身免疫活性化

特に DRESS(薬剤性過敏症症候群)では、
・好酸球増多
・肝障害
・リンパ節腫脹
がほぼセット。

CBC+好酸球、肝機能、薬歴のセット確認が重要

薬剤師の実践ポイントまとめ

状況判断ポイント行動
好中球↑感染? それともステロイド?処方歴をチェック
好酸球↑アレルギー? 薬剤? 寄生虫?新規薬・輸入食品・渡航歴
好塩基球↑CML疑い速やかに医師に共有
好酸球0%ステロイド or ファセンラ等生物学的製剤過度に心配不要

白血球分画は、単なる数字列ではなく、
感染・炎症・薬剤性反応を読み解く“免疫のカルテ” です。

・好中球は感染とステロイドを教えてくれる
・好酸球は薬剤アレルギーの目印になる
・好塩基球は血液腫瘍の警告灯

血液検査を読む薬剤師が増えるほど、
薬害も不要な抗菌薬も減らせるはずです。

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