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難聴にステロイドが効くのはなぜ?
公開. 更新. 投稿者:免疫/リウマチ.この記事は約4分57秒で読めます.
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突発性難聴治療の仕組み

難聴というと「年齢とともに進むもの」と思われがちですが、ある日突然、片方の耳が聞こえなくなる「突発性難聴」という病気があります。
この病気の治療として、耳鼻科ではステロイド薬を使用するのが一般的です。
しかし、ステロイドと聞くと「炎症を抑える薬」というイメージはあっても、なぜ難聴に効くのかイメージしづらい方も多いのではないでしょうか?
難聴にステロイドが効く理由とその背景について、勉強します。
突発性難聴とはどんな病気?
「朝起きたら耳が詰まっていて、そのまま聞こえなくなった」
「電話の音が急に遠くに聞こえるようになった」
こういった症状で病院を受診する方は珍しくありません。
突発性難聴は、以下の3つの条件を満たす病気です。
・突然発症する
・原因が特定できない
・感音難聴(内耳や聴神経の障害による難聴)である
日本では年間3万人以上が発症すると推定されています。
特に中年以降に多く、ストレスや過労がきっかけになる場合もあります。
突発性難聴では、できるだけ早期に治療を開始することが回復率に大きく影響します。
この治療の中心となるのがステロイド薬です。
難聴に使われるステロイドの種類
難聴治療で用いるステロイドには、いくつかの投与方法があります。
内服薬
もっとも一般的なのが、プレドニゾロンなどの内服薬です。
体重や症状に応じて1日30〜60mg程度から始め、1〜2週間かけて徐々に減量していきます。
点滴
症状が重い場合や、内服が難しい場合はメチルプレドニゾロンの点滴を行うこともあります。
鼓室内注入
最近では、鼓室内ステロイド注入療法(鼓膜に針を刺して直接中耳に薬液を入れる方法)も行われています。
全身への副作用を抑えつつ、内耳に高濃度のステロイドを届けられるのが特徴です。
ステロイドはどんな仕組みで難聴を改善するのか?
ここが本題です。
ステロイドが難聴に効くのは主に3つの理由があります。
①内耳の炎症を抑える
突発性難聴では、内耳(蝸牛)に何らかの炎症が起こっていると考えられています。
・ウイルス感染(単純ヘルペスウイルスなど)
・自己免疫反応
・ストレスによる微小循環障害
これらがきっかけで内耳の細胞が炎症を起こし、むくみが発生すると、音を電気信号に変換する有毛細胞が働けなくなります。
ステロイドは、
・炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1など)の産生を抑制
・血管の透過性を低下させて浮腫を改善
する作用を持ちます。
この抗炎症作用によって、内耳の腫れや細胞障害を軽減し、聴力回復のチャンスを高めると考えられています。
②内耳の血流を改善する
内耳は非常に血流が乏しい組織です。
耳に栄養を送る血管が詰まったり血流が低下したりすると、たちまち細胞がダメージを受けます。
ステロイドには、
・血管収縮因子の抑制
・血管拡張作用の増強
といった作用もあり、内耳の微小循環を改善します。
つまり、
「血流障害による難聴」を少しでも回復させるために使う面もあります。
③自己免疫反応を抑える
突発性難聴の一部は、自己免疫性内耳炎と呼ばれる、体の免疫が自分の内耳を攻撃する状態に近い病態が含まれると考えられています。
この場合、自己抗体が有毛細胞や血管を障害し、炎症や血流障害を引き起こします。
ステロイドは免疫抑制作用を持つため、
・異常な自己免疫反応を抑え
・攻撃の進行を防ぐ
効果が期待されます。
浮腫は抑えるのか?悪化させるのか?
ここで一つの疑問が湧くかもしれません。
「ステロイドはむくみを引き起こす副作用があるのに、難聴のむくみは抑えられるのか?」
この答えは「局所の炎症性浮腫と全身の水分貯留は別」です。
・内耳の炎症性浮腫 → ステロイドで抑える
・長期投与によるナトリウム貯留 → 全身性のむくみを引き起こす
つまり、局所の炎症を鎮めることが第一の目的なので、難聴治療ではむくみを抑える方向に働くと考えられます。
難聴治療におけるステロイドの効果と注意点
突発性難聴のステロイド治療は、発症からの時間が最も重要です。
・発症後1週間以内に治療を開始すると治癒率が高い
・2週間を超えると回復率が低下する
また、ステロイドには
・感染症のリスク増加
・血糖上昇
・消化性潰瘍
・精神症状
などの副作用があり、全身状態を見ながら使用する必要があります。
鼓室内ステロイド注入療法とは?
鼓室内注入は、近年注目されている治療法です。
・鼓膜に細い針を刺し、ステロイドを直接中耳に注入
・内耳に高濃度で届く
・全身性の副作用を抑えやすい
海外では標準治療の一つとして用いられ、日本でも適応が増えてきています。
難聴にステロイドが効かないケースは?
すべての突発性難聴が回復するわけではありません。
・高度難聴(聴力レベル70dB以上)
・高齢発症
・発症から治療までの時間が遅い
などの場合は予後が悪いといわれます。
ステロイド治療後も回復しない場合は、補聴器や人工内耳を検討することもあります。
まとめ
ステロイドは難聴治療の第一選択薬として、炎症や浮腫、血流障害を改善するために使われています。
・難聴にステロイドが効く理由
・内耳の炎症を鎮める
・微小循環を改善する
・異常な免疫反応を抑える
これらの作用が相まって、突発性難聴の回復を助けています。
発症から治療開始までの時間が短いほど効果が高いので、「おかしいな?」と思ったらすぐ耳鼻科を受診することが何より重要です。