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強い薬と弱い薬
公開. 更新. 投稿者:服薬指導/薬歴/検査.この記事は約4分42秒で読めます.
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強い薬ですか?弱い薬ですか?

「この薬、強いですか?」
薬剤師として服薬指導をしていると、患者さんから次のような質問を受けることがあります。
「この薬って強い薬ですか?」
「前に飲んだ薬より弱いんですか?」
「この薬とあの薬、どっちが強いんですか?」
こうした質問にどう答えればよいか、迷った経験がある方も多いのではないでしょうか。
実際のところ、「強い薬」「弱い薬」という表現はとても曖昧で、何をもって“強い”とするかの基準が人によって異なります。
なぜ「強い・弱い」で聞かれるのか?
患者さんが「強い薬ですか?」と聞いてくるとき、その背景には以下のような意図が隠れている可能性があります。
● 副作用が心配
「強い=副作用が強い」というイメージがある方が多いようです。
特にステロイドや抗がん剤、麻薬性鎮痛薬に対しては、「強い薬=怖い薬」という印象を抱きやすい傾向があります。
● 以前の薬と比較したい
前回処方された薬より「効く」のかどうか、単に強さの度合いで確認したいという意図です。
● 病気が重くなったのでは?
「強い薬が出た=病状が悪化している」という不安から確認してくるケースもあります。
● 安全性が気になる
「弱い薬なら安心」「強い薬なら慎重に」と、自身で服薬リスクを判断しようとする姿勢の表れとも言えます。
では、「強い薬」「弱い薬」とは何か?
実際には「強い薬」と一口に言っても、以下のように複数の視点があります。
① 効力(効果の大きさ・発現の速さ)
例:解熱鎮痛薬であれば、アセトアミノフェンよりもNSAIDs(ロキソプロフェンやジクロフェナク)のほうが効果は強いとされる。
② 投与量(少量で効くか)
例:ステロイドでは、ミリグラム単位で効くデキサメタゾンの方が、プレドニゾロンよりも「効力が強い」とされる。
③ 副作用の強さ・頻度
例:麻薬性鎮痛薬や抗がん剤などは、適応も限られ、副作用が強く出るリスクもあることから「強い薬」という印象が強い。
④ 適応疾患の重篤性
例:がん、難病、自己免疫疾患などに使われる薬は、病気の重さから「重い病気=強い薬」という連想が起こる。
「強い薬」と言われがちな薬剤の例
● ステロイド
・「ステロイド=副作用が怖い」というイメージが強い
・しかし、用量・使用期間・剤型(外用か内服か)でリスクは異なる
● 抗がん剤
・発熱、脱毛、吐き気などの副作用が出ることが多く、「強い薬」の代表格
・免疫抑制や骨髄抑制の影響もあるが、最近では副作用軽減の工夫も進んでいる
● 麻薬性鎮痛薬(モルヒネ、フェンタニルなど)
・「中毒になる」「依存する」といった誤解があり、「強い薬」として不安視される
・がん性疼痛や慢性疼痛においては重要な選択肢である
「弱い薬」だからといって安心ではない
逆に、「弱い薬だから大丈夫」と思い込んでしまうのも危険です。
● 例:アセトアミノフェン
・比較的副作用が少ない薬ですが、過量服用で肝障害を起こす可能性があります。
● 例:漢方薬やOTC薬
・「自然由来」や「弱いから安心」と思われがちですが、成分によっては腎障害や肝障害、間質性肺炎などの副作用も報告されています。
医療者としてどう伝えるべきか
● 患者の意図を確認する
まず、「なぜその質問をしているのか」を聞き返してみましょう。
「副作用が心配ということですか?」
「以前のお薬と違いが気になるのですか?」
といった形で、真意を引き出すことで、適切な説明が可能になります。
● 「強い」「弱い」で返さない
例えば、
「この薬は◯◯にしっかり効く薬ですが、症状や体質に合わせて少ない量から始めています」
「副作用は出にくいですが、まれに△△のような症状が出ることがあります」
というように、効果とリスクをバランスよく伝えることが大切です。
● 「強い薬」という表現は慎重に
「この薬は強い薬です」と言ってしまうと、患者に過剰な不安を与えるリスクもあります。
逆に、「弱い薬」と表現すると、過小評価され、自己中断や過量服用につながることも。
ケース別:説明の工夫
● ケース1:「ステロイドって強い薬ですよね?」
→「確かに体に大きな影響を及ぼす薬なので、使い方が大切です。ただし、短期間・適切な量であれば副作用もほとんど心配いりません」
● ケース2:「前より強い薬に変わったんですか?」
→「前の薬では効果が十分でなかったので、症状に合わせて違うタイプの薬を使うことになりました。体への負担が増えるわけではありませんよ」
まとめ:「強い・弱い」よりも「適切かどうか」
「強い薬」「弱い薬」という言葉は、医学的な定義がないにもかかわらず、患者側から頻繁に使われる表現です。
その背景には、副作用への不安、病状の重症度、過去の経験などが複雑に絡んでいます。
医療者側としては、「強い薬だから怖い」「弱い薬だから安心」という単純な二元論ではなく、「その人にとって適切な薬かどうか」を伝える姿勢が求められます。
患者の言葉の奥にある気持ちに寄り添いながら、不安を和らげる説明を心がけていきたいものです。