2026年2月26日更新.2,762記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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放射線照射リコール反応とは?―放射線と薬の相互作用

放射線照射リコール反応とは?

がん治療の現場では、放射線療法と薬物療法はしばしば同じ患者さんの中で“連続して”行われます。すると一見「治療を終えたはずの放射線の副作用」が、数週間〜数か月、時に年単位の時間を経て、ある薬をきっかけに再燃することがあります。それが放射線照射リコール反応(Radiation Recall Reaction)です。

この現象は、薬の添付文書でも副作用として取り上げられるようになっており、たとえばノルバデックスでは「放射線照射リコール反応」の追記が改訂文書として示されています 。ネクサバールにも副作用として同様の記載があります 。ゼルボラフに至っては「放射線照射リコール反応」「放射線増感作用」まで含め、放射線照射との併用または前後照射で問題が起こり得る旨が明記されています 。

医薬品名添付文書の記載
ゼルボラフ相互作用:放射線照射の併用又は本剤投与前後の放射線照射により放射線皮膚障害、放射線性肺臓炎等の放射線照射リコール反応、放射線増感作用があらわれることがある。
ゼローダ副作用:放射線照射リコール症候群
ネクサバール副作用:放射線照射リコール反応
ノルバデックス副反応:放射線照射リコール反応

放射線照射リコール反応を中心に、(1)何が起きているのか、(2)どんな薬で起こりやすいのか、(3)現場でどう見分け、どう対処するか、(4)薬剤師として何を伝えるべきか、を整理します。

放射線照射リコール反応の定義:いちど治った炎症が“薬で呼び戻される”

放射線照射リコール反応は、平たく言えば、

・過去に放射線を当てた部位に限局して
・一定期間をおいて(放射線治療の急性期反応が落ち着いた後)
・ある薬の投与を契機に、炎症反応が“再燃”する

という現象です。

“リコール(recall)”は「呼び戻す」という意味で、放射線で傷んだ組織が、薬の刺激で再び炎症を起こすイメージです。部位は皮膚が有名ですが、肺(放射線性肺臓炎様)、消化管(食道炎・腸炎様)、粘膜などでも起こり得ます。ゼルボラフの注意喚起でも、放射線皮膚障害や放射線性肺臓炎等の「放射線照射リコール反応」が挙げられています 。

似て非なる概念:「放射線増感」と「リコール」はどう違う?

放射線と薬の関係には、よく似た概念が2つあります。

(A) 放射線増感(radiosensitization)
放射線照射と薬を“同時期”に使うことで、放射線の効果(腫瘍制御)も副作用も強まることがある。

意図的に用いられることも多い(化学放射線療法など)。

ゼルボラフは「放射線増感作用」があらわれることがある、と明記しています 。

(B) 放射線照射リコール反応(radiation recall)
放射線照射が終わって、ある程度時間が経ってから

薬をきっかけに照射部位の炎症が再燃する。

両者は“放射線+薬”という見た目は同じでも、時間軸が違う点が重要です。現場ではこの区別がつくと、トラブルの原因推定(「今やっている同時併用が悪いのか」「終わった照射歴が関係しているのか」)が整理できます。

どれくらい後に起こる?:数日〜数年、幅が広いのが厄介

放射線照射リコール反応の難しさは、発現までの期間がかなり幅広いことです。

放射線終了後、数週間〜数か月で起きることもあれば
年単位で経ってから起きることもあり得ます

そのため患者さん側も医療者側も、「放射線は昔の話」と切り離してしまいがちです。薬歴聴取のときに「放射線治療歴」を確認する意味がここにあります。

症状:皮膚が典型、でも臓器でも起こる

皮膚のリコール(最も頻度が高いタイプ)
典型的には、照射野に一致して

・発赤(赤み)
・かゆみ、灼熱感
・腫脹
・乾燥、落屑
・水疱、びらん、潰瘍

などが出ます。境界が比較的はっきりし、「放射線を当てた形」に沿って出やすいのが特徴です。

肺:放射線性肺臓炎様
胸部照射歴がある人で、薬投与後に

・咳
・息切れ
・発熱
・画像で照射野に一致した陰影

などが出ると、感染症だけでなくリコールも鑑別に入ります。ゼルボラフが放射線性肺臓炎等を具体例として挙げているのは、この重要性を反映しています 。

消化管・粘膜
食道、腸、口腔粘膜など、照射が関与した部位に限局して炎症が出ることがあります。

なぜ起こる?:機序は“完全には確定していない”

放射線照射リコール反応は、古くから知られていますが、機序は単一ではなく、いまだ決着がついていません。よく語られる仮説としては、

・放射線で傷んだ組織が、修復後も“易炎症性”の状態として残る
・そこに薬の刺激(細胞障害、免疫・炎症の変化、血管反応など)が入ると、炎症が再燃する
・皮膚や粘膜など“境界が見えやすい組織”で目立つ

といったものです。

重要なのは、薬剤アレルギー(全身性・多部位)と違い、照射野に一致しやすいという臨床像です。ここが見分けの第一歩になります。

どんな薬で起こる?:抗がん剤だけではない(でも抗がん剤が多い)

リコールを起こす薬は多数報告されています。特に臨床で遭遇しやすいのは抗がん剤・分子標的薬・内分泌療法などです。

タモキシフェン(ノルバデックス)
ノルバデックスでは「放射線照射リコール反応」が副作用として挙げられています 。改訂理由として、海外本社の安全性データベースや文献検討等を踏まえてCCDSが改訂され、日本でも事例が集積していることが述べられています 。

乳がん領域では、手術・放射線・内分泌療法が時間差で組み合わさることが多く、「放射線は終わったから大丈夫」と思っている患者さんで起きると驚きが大きいタイプです。皮膚炎の再燃が「炎症性乳癌(炎症性再発)との鑑別を要する」可能性に言及があるのも重要ポイントです 。

カペシタビン(ゼローダ)
ゼローダ(カペシタビン)では、PMDAの資料に「放射線照射リコール症候群」が副作用として言及されています 。またカペシタビン製剤の資料でも「放射線照射リコール症候群」が副作用として掲載されています 。

カペシタビンは消化器がん・乳がんで広く使われ、放射線との組み合わせも治療戦略として存在します。したがって「同時期の増感」と「時間差のリコール」の両面で注意が必要です。

ソラフェニブ(ネクサバール)
ネクサバールの添付文書情報には「放射線照射リコール反応」が記載されています 。分子標的薬は皮膚障害を起こしやすい薬も多く、照射野の皮膚が“弱いところ”として再燃しやすい可能性があります。

ベムラフェニブ(ゼルボラフ)
ゼルボラフは、放射線照射の併用、または投与前後の照射により、放射線皮膚障害や放射線性肺臓炎などの「放射線照射リコール反応」、さらに「放射線増感作用」が現れることがある、と明確に注意喚起しています 。

“リコール”だけでなく“増感”まで同列に書かれているのは、時間差の問題だけでなく、放射線と薬の相互作用が複層的であることを示しています。

診断のコツ:まず「照射野に一致するか」を見る

放射線照射リコール反応の診断は、血液検査で一発で確定するものではありません。臨床的には次をセットで考えます。

・放射線治療歴がある(いつ、どこに、どれくらい)
・照射野に一致した局所症状(皮膚なら形が一致しやすい)
・新規薬剤の開始・増量が直前にある(数日〜数週間が多いが例外あり)
・感染、腫瘍再発、単純な放射線晩期障害、アレルギーなど他の鑑別がしっくり来ない/または除外できる

特に乳がん領域では、照射野の赤み・腫脹が再燃したときに「炎症性再発」との鑑別が問題になり得る、と改訂文書で触れられています 。ここは患者さんの不安が非常に大きくなる場面なので、医療者側が“リコールという選択肢”を知っているかどうかで説明の質が変わります。

対応:基本は「原因薬の中断(または調整)+炎症の治療」

治療の原則はシンプルで、重症度に応じて
・原因薬の休薬・中止(あるいは減量・再開時期の調整)
・皮膚炎なら外用ステロイド、保湿、疼痛コントロール
・二次感染が疑わしければ適切な評価
・肺炎様なら呼吸器評価・画像・必要によりステロイド(感染鑑別を並走)
などが中心になります。

重要なのは、「薬をやめたら必ず再発しない」「再開したら必ず再燃する」といった単純なルールではないことです。薬によっては、がん治療上どうしても必要で、再開を検討することがあります。その場合は、

・反応の重症度
・代替薬の有無
・放射線治療との時間関係
・予防的な皮膚ケア、ステロイドの使い方

などを踏まえて慎重に判断します。

服薬指導での実践ポイント:薬剤師が拾える“違和感”

放射線照射リコール反応は、「知っている人だけが早く気づける」副作用です。薬剤師としては、次の3点が実務上の要になります。

放射線治療歴の確認(いつ・どこ)
患者さんは放射線を「手術の一部」「過去の治療」として忘れていることがあります。皮膚トラブルや咳などの訴えがあったとき、“どこに放射線を当てたか”を聞けると推定が一気に進みます。

「照射野の形」の質問
皮膚なら、
「赤みは四角く出ていますか?」
「昔当てた範囲と同じですか?」
という質問が有効です。照射野一致は強いヒントです。

“新規開始薬”のタイミングをつなぐ

新しい抗がん剤、分子標的薬、内分泌療法の開始直後に照射部位が荒れると、患者さんは「放射線の後遺症が悪化した」「がんが悪くなった」と捉えがちです。そこに「薬で一時的に炎症が再燃する現象がある」ことを説明できると、不安の質が変わります。

特に、ノルバデックスの改訂文書が示すように、炎症性再発との鑑別が話題になる領域では、説明の段階で患者さんの心理的負担を減らせます 。

まとめ:放射線照射リコール反応は「時間差で起こる相互作用」

放射線照射リコール反応は、放射線と薬の関係を“同時併用”だけで捉えると見落としやすい現象です。

・放射線治療が終わって時間が経ってから
・ある薬をきっかけに
・照射野に一致して炎症が再燃する

という、時間差の相互作用。

ノルバデックスで「放射線照射リコール反応」が副作用として位置づけられ 、ネクサバールでも同様の記載があり 、ゼルボラフではリコールと増感の両面が明記される ——これらは、現場で“実際に問題になり得る”ことを反映しています。ゼローダ(カペシタビン)についても、審査資料や製剤資料で「放射線照射リコール症候群」が言及されており 、治療の組み合わせが多い薬ほど注意が必要です。

薬剤師としては、放射線歴・照射部位・症状の形・薬開始のタイミングを丁寧につなぎ、必要時に早期受診(主治医連絡)につなげることが、最も実践的で価値の高い介入になります。

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