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吸入ステロイドで身長が伸びなくなる?
公開. 更新. 投稿者:喘息/COPD/喫煙.この記事は約3分28秒で読めます.
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吸入ステロイドで背が伸びない?

子どもが喘息と診断され、医師から「吸入ステロイド」が処方されたとき、多くの保護者が不安に感じるのが「ステロイド=怖い薬」というイメージです。とくに、「身長が伸びなくなるのでは?」という心配は、多くの親御さんが抱く疑問のひとつです。
吸入ステロイドとは?
吸入ステロイド(ICS:Inhaled Corticosteroids)は、喘息治療において最も重要とされる第一選択薬です。喘息の基本的な病態は「気道の慢性炎症」であり、この炎症をコントロールしなければ、発作の予防もQOL(生活の質)の向上も望めません。
ステロイドは強力な抗炎症作用を持つため、炎症を起こした気道に直接届けることで喘息症状を根本から改善します。
ステロイドと聞くと怖い薬に聞こえる理由
ステロイドには、「ムーンフェイス」「骨がもろくなる」「免疫が下がる」など、全身性の副作用が知られています。これは経口ステロイドや注射薬など、全身に作用する場合に見られるものです。
しかし、吸入ステロイドは微量を肺に直接届けることで効果を発揮するため、同じ「ステロイド」でも全く別の使われ方をしています。
吸入ステロイドの副作用とは?
吸入ステロイドの主な副作用は、局所的な症状にとどまります。
・嗄声(声がかすれる)
・咽頭痛
・口腔カンジダ症(白い苔のような口内感染)
これらは薬剤が喉や口腔内に付着することで起こるため、以下の予防策で軽減・回避できます:
・吸入後の「うがい」
・飲み込みではなく、口をブクブクしてから「吐き出す」こと
・吸入補助器具(スペーサー)の使用で肺への到達率を上げる
肝臓で代謝される吸入ステロイドの仕組み
吸入されたステロイドのうち、実際に肺に届くのは15~55%とされており、それ以外は口や消化管に入り込んでしまいます。
この時、飲み込んだステロイド成分は腸から吸収されたとしても、肝臓の「初回通過効果」でほとんどが代謝され、不活性化されてしまいます。
たとえばフルチカゾンプロピオン酸エステルの経口投与時のバイオアベイラビリティ(実際に効果を発揮する割合)は1%未満です。
したがって、全身に及ぼす影響はほぼないといって差し支えありません。
吸入ステロイドは身長に影響するのか?
ここが最も気になる点かと思います。結論から言えば、
「承認された用量の範囲であれば、吸入ステロイドによる身長への影響はほとんどありません。」
しかし、高用量・長期投与の場合には、わずかに成長速度に影響が出る可能性が指摘されています。
◇ 具体的な研究結果
小児のICS使用によって初年度の成長速度が平均で0.5~1cm/年ほど低下する可能性があるとする研究があります。
ただしこれは一過性の現象であり、治療を継続しても最終身長(成人身長)には影響しないとする報告もあります。
吸入ステロイドを中止すれば、成長速度は自然に回復する傾向にあります。
逆に「喘息が悪化する方が成長に悪い」って本当?
はい、これは非常に重要な視点です。
・慢性的な炎症
・酸素不足
・夜間の咳による睡眠障害
・運動制限
これらすべてが、成長ホルモンの分泌や全身の代謝に悪影響を及ぼします。
つまり、吸入ステロイドを使って喘息をしっかりコントロールすることこそが、結果的に「成長を守る」という考え方が主流になっています。
保護者に知っておいてほしい6つのポイント
以下の点を理解することで、安心してお子さんの治療に向き合えるようになります:
①吸入ステロイドは現在の喘息治療の標準薬であること
②ステロイド量はごく微量(μg単位)であること
③肺に直接届くため、全身副作用は非常に少ないこと
④飲み込んでも肝臓で代謝されてしまうため、影響が残らないこと
⑤気道炎症を抑えることで、症状が改善し、日常生活が快適になること
⑥結果的にQOL(生活の質)が向上し、成長環境が整うこと
保護者からよくある質問とその答え
Q:本当に毎日吸わせて大丈夫なんですか?
A:医師が処方している用量であれば問題ありません。逆に、自己判断で中断する方が危険です。
Q:副作用が心配なので時々しか使っていません。
A:吸入ステロイドは“予防薬”です。症状がない時も継続することで効果を発揮します。
Q:スペーサーって必要ですか?
A:特に小児ではスペーサーを使用した方が肺への薬剤到達率が上がり、副作用も減ります。
まとめ
吸入ステロイドは、喘息治療における最も信頼性の高い薬です。その仕組みや安全性を正しく理解することで、「身長が伸びないのでは?」という誤解は解消されます。
子どもにとって大切なのは、自由に呼吸できる日常を取り戻すこと。
その第一歩が、吸入ステロイドによる的確な治療なのです。