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日本人はなぜ糖尿病になりやすいのか?
公開. 更新. 投稿者:糖尿病.この記事は約4分29秒で読めます.
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日本人はなぜ糖尿病になりやすいのか?

糖尿病は、いまや日本人の国民病のひとつといえる疾患です。
「甘いものを食べ過ぎるとなる病気」というイメージが先行しがちですが、実際には遺伝的な体質や民族的背景が深く関わっていることがわかっています。
特に、アジア人の多くは糖尿病を発症しやすい体質を持っています。その中でも日本人は、欧米人に比べていくつかの重要な違いがあります。
糖尿病の発症に関わるインスリン分泌能の違い、農耕民族としての体質、食習慣の変化、糖毒性の問題を中心に、日本人が糖尿病になりやすい理由を勉強していきます。
日本人のルーツと「農耕民族」の体質
人類の進化と生活様式は、体の代謝機能に大きな影響を与えてきました。
欧米人は狩猟・牧畜文化を中心に発展し、アジア人、とくに日本人は稲作をはじめとする農耕文化で暮らしてきた歴史があります。
狩猟民族は、獲物を獲るたびに大量のタンパク質や脂質を摂取し、それを効率的にエネルギーに変える代謝システムを必要としてきました。
食料が得られない時期も多く、体は余剰のエネルギーを貯蔵・利用する柔軟性を求められます。このため、インスリンの分泌能力も高いと考えられています。
一方、農耕民族は穀物を中心に比較的安定的に食料を得る生活様式でした。
収穫した穀物を保存し、少しずつ食べることができるため、狩猟民族ほど高いインスリン分泌能力を必要としなかったのです。
こうした背景から、日本人を含むアジア人は遺伝的にインスリン分泌能が低いといわれています。
実際に、欧米人と比較するとインスリン分泌能力は約半分程度とも指摘されています。
インスリン分泌能が低い日本人
インスリンは膵臓のβ細胞から分泌され、血糖値を下げる役割を担います。
食事をとると血糖値が上昇しますが、それに応じてインスリンが分泌され、血糖が細胞に取り込まれ、エネルギーとして利用されます。
欧米人に比べて日本人は、もともとインスリンの分泌が少ない体質です。
また、日本人は空腹時血糖値が100mg/dLを超えると、インスリン分泌能が低下しやすいといわれています。
さらに、インスリン分泌の「予備能」も少ないため、ちょっとした負荷で簡単に分泌能が落ちてしまいます。
たとえば、
・運動不足
・軽度の肥満
・ストレス
こうした要因が重なるだけで、インスリン分泌が追いつかなくなり、血糖値が上がってしまいます。
欧米人ではインスリン分泌能が高いため、かなり強いインスリン抵抗性(肥満など)がないと糖尿病になりにくいのに対し、日本人は軽度の肥満やインスリン抵抗性でも発症しやすいのが特徴です。
生活習慣の変化とインスリン抵抗性の増大
「昔の日本人は痩せていて、粗食で長寿だった」とよく言われますが、実際その通りでした。
高度経済成長以前の日本は、白米を中心とした質素な食事が一般的で、糖質の総量は多いものの脂質は少なく、総摂取カロリーも今より少なめでした。
しかし、ここ50年で食生活は劇的に変化しました。
・高脂質・高カロリーの欧米型の食事
・外食やファストフードの増加
・間食や清涼飲料水の普及
・体を動かさない生活
この変化が、日本人の体質に追い打ちをかけています。
以前は「インスリン分泌能が低くても、インスリン抵抗性がそれほど強くなかった」ため、糖尿病の発症が抑えられていました。
しかし、現代ではインスリン抵抗性が上昇しやすい生活環境となり、少し太っただけでも血糖コントロールが破綻する人が増えています。
ある研究では、糖尿病を発症する7年以上前から、すでにインスリン抵抗性が上がり始めていることが報告されています。
「気づかないうちにじわじわと進行している」ことが多いのが糖尿病の怖いところです。
糖毒性の悪循環
糖尿病の進行において重要な概念が糖毒性です。
糖毒性とは、慢性的に高血糖の状態が続くことで、膵臓β細胞がダメージを受け、さらにインスリン分泌能が低下する状態を指します。
血糖が高い
↓
膵臓が疲弊する
↓
インスリンが出なくなる
↓
さらに血糖が上がる
この悪循環に陥ると、食事療法や運動療法だけでは血糖コントロールが難しくなります。
さらにインスリン抵抗性も増大し、高血糖が一層進行します。
糖毒性は、早期に治療で血糖値を下げると、ある程度回復します。
しかし放置すればするほど、β細胞のダメージは不可逆的になり、インスリン治療が必要になります。
日本人はインスリン分泌能が少ないため、糖毒性に陥りやすいという特徴があります。
糖尿病を防ぐには食事の工夫が重要
糖尿病の予防や進行抑制には、運動や薬物療法に加え、食事内容を工夫することが最も重要です。
最近はGI(グリセミックインデックス)の考え方が注目されています。
GIとは、食品がどのくらい早く血糖を上げるかを示した指標です。
GIの低い食品は血糖値の上昇が緩やかで、インスリン分泌の負担が軽く済みます。
白米 vs. パスタ
白米は高GI食品(GI約84)であり、食後血糖が上がりやすい主食です。
一方、パスタ(乾燥麺を茹でたもの)はGIが低く(約50〜60)、血糖上昇が穏やかです。
パスタはデュラム小麦をセモリナ粉にして練り上げ、圧縮して乾燥させる特殊な製造工程により、消化がゆっくり進むため、食後高血糖を抑制しやすい特長があります。
食事指導では、
・白米より玄米・発芽玄米
・白いパンより全粒粉・ライ麦パン
・うどんよりパスタ
を勧めることが多いです。
また、豆類や食物繊維の多い食品を取り入れることも有効です。
お菓子や甘い飲料を減らし、果物やナッツに置き換えるのも工夫の一つです。
まとめ:日本人の体質と環境が複雑に絡む
日本人が糖尿病になりやすいのは、単に「甘いものを食べ過ぎたから」ではなく、以下の要因が複雑に絡んでいます。
・農耕民族の体質としてインスリン分泌能がもともと低い
・わずかな肥満でもインスリン分泌が追いつかなくなる
・食生活の欧米化と運動不足でインスリン抵抗性が増加
・糖毒性に陥りやすく、悪循環を断ち切れなくなる
この背景を理解することが、予防と治療の第一歩です。
「血糖値が少し高め」と指摘された時点で、食事や運動の習慣を見直すことが、将来の糖尿病発症リスクを大きく減らします。