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健康保険が使えないケガとは?―仕事中・ケンカ・泥酔・自傷行為
公開. 更新. 投稿者: 458 ビュー. カテゴリ:調剤報酬/レセプト.この記事は約8分18秒で読めます.
健康保険が使えないケガ

病院や薬局で患者から、
「仕事中にケガをしたんですが、保険証は使えますか?」
と聞かれることがあります。
仕事中のケガなら労災なので健康保険は使えない、というのは比較的よく知られています。
しかし、
- ケンカをしてケガをした
- 酒に酔って転倒した
- 自分で自分を傷つけた
- 犯罪行為中にケガをした
- 自営業者が仕事中にケガをした
といった場合はどうでしょうか。
「自分に責任があるケガには保険が使えない」と思っている人もいるかもしれません。
実際には、それほど単純ではありません。
健康保険や国民健康保険には「給付制限」という仕組みがありますが、過失によるケガ、ケンカ、泥酔、自傷行為ではそれぞれ扱いが異なります。
今回は、どのようなケガで健康保険が使えないのかを整理します。
「自分のせいでケガをした」だけでは保険適用外にならない
まず押さえておきたいのは、
自分の不注意によってケガをしたからといって、健康保険が使えなくなるわけではない
ということです。
たとえば、
- 階段を踏み外して骨折した
- 包丁で誤って指を切った
- DIY中に金づちで自分の指を打った
- スポーツ中に転倒した
- 自転車で転倒した
といったケガでは、通常、健康保険を使えます。
「自分で起こした事故」と「故意に自分を負傷させたこと」は別だからです。
国民健康保険法第60条では、
被保険者が、自己の故意の犯罪行為により、又は故意に疾病にかかり、又は負傷したとき
には、その疾病・負傷について療養の給付等を行わないとされています。
つまり問題となるのは単なる不注意ではなく、「故意」です。
仕事中のケガは健康保険を使えない?
会社員などの労働者が仕事中に業務を原因としてケガをした場合、原則として健康保険ではなく労災保険の対象です。
たとえば、
「倉庫で荷物を運んでいて転倒して骨折した」
というケースなら、本人の不注意が原因だったとしても、業務災害と認められれば労災保険の対象になります。
労災保険は使用者の「無過失責任」を基本としているため、
「本人が不注意だったから労災ではない」
ということにはなりません。
また、
「会社が労災だと認めてくれない」
という場合でも、それだけで労災が使えなくなるわけではありません。
労災に該当するかどうかを最終的に判断するのは事業主ではなく、労働基準監督署長です。事業主の証明が得られなくても労災請求は可能です。
国民健康保険についても、国民健康保険法第56条で、労災保険による療養給付などを受けられる場合には、国保による同じ療養給付は行わないという調整規定が設けられています。
したがって、
仕事中のケガだから治療費が10割自己負担になる
のではなく、
健康保険・国保ではなく労災保険から給付される
というのが基本です。
自営業者が仕事中にケガをしたら?
一方、自営業者については事情が異なります。
「仕事中のケガ=すべて健康保険が使えない」
というわけではありません。
かつて健康保険では「業務上・業務外」という区分が問題となりましたが、現在は、請負業務やインターンシップなどで労災保険から給付を受けられない場合には健康保険の対象とするという整理がされています。
たとえば、自営農家本人が農作業中にケガをした場合などでは、労災保険の特別加入などの対象になっていなければ、医療保険を利用できるケースがあります。
逆に労災保険の給付を受けられるのであれば、そちらが優先されます。
そのため薬局で、
「仕事中のケガです」
と言われただけで、
「では保険証は使えません」
と判断するのは早計です。
その人が労働者なのか、自営業者なのか、労災給付を受けられる事故なのか
まで確認する必要があります。
ケンカでケガをしたら健康保険は使えない?
国民健康保険法第61条には、
被保険者が闘争、泥酔又は著しい不行跡によって疾病にかかり、又は負傷したとき
には、療養の給付等の全部または一部を行わないことができると規定されています。
ここで重要なのが、
「行わない」ではなく「行わないことができる」
という表現です。
つまり、
ケンカによるケガ=必ず健康保険が使えない
と機械的に決まるわけではありません。
事情に応じて保険者が給付制限を判断することになります。
また、一方的に暴行を受けた被害者まで「闘争」と同じように扱うのは適切ではありません。
第三者から暴行を受けた場合には「第三者行為」による傷病として、保険者への届出などが問題となることがあります。
したがって「殴られた」という患者に対して、
「ケンカだから保険は使えません」
と即断するのは危険です。
泥酔して転んだら?
泥酔も国民健康保険法第61条に明記されています。
そのため、
「泥酔して階段から転落して骨折した」
といったケースでは、保険給付の全部または一部が制限される可能性があります。
ただし、ここでも重要なのは、
お酒を飲んでいた=健康保険が使えない
ではないことです。
法律が規定しているのは「泥酔」によって疾病・負傷した場合です。
たとえば夕食時にビールを飲んだ後にたまたま転倒した、というだけで直ちに給付制限になるわけではありません。
飲酒の程度や、飲酒と負傷との関係など、個々の状況によって判断されます。
自分で自分をケガさせたら?
ここも誤解しやすいところです。
「自分でケガをした」というだけなら問題ありません。
たとえば、
- 包丁を使っていて誤って指を切った
- 農機具を自分で操作していて手を挟んだ
- 自転車の運転を誤って転倒した
といった事故は、自分の行動が原因ではありますが、負傷そのものを意図していたわけではありません。
したがって通常は「故意に負傷した」には該当しません。
問題となるのは、意図的に自分を傷つけた場合です。
国民健康保険法第60条では「故意に疾病にかかり、又は負傷したとき」は、その疾病・負傷について給付を行わないとされています。
ところが、自傷行為については非常に重要な例外があります。
自殺未遂なら健康保険は使えない?
条文だけを読めば、
自殺未遂
↓
自分で意図的に負傷
↓
「故意に負傷」に該当
↓
保険給付されない
と考えたくなります。
しかし、実際の取り扱いはそう単純ではありません。
厚生労働省は2010年、「自殺未遂による傷病に係る保険給付等について」という通知を出しています。
そこでは、自殺未遂による傷病について、
その傷病の発生が精神疾患等に起因すると認められる場合には、「故意」に給付事由を生じさせたことには当たらず、保険給付等の対象になる
とされています。
これは健康保険だけでなく、国民健康保険や後期高齢者医療などについても示された取り扱いです。
さらに、精神科への通院歴や向精神薬の投薬歴がなかったとしても、傷病の発生が精神疾患等に起因すると保険者が確認できれば、保険給付の対象となり得ます。
したがって、
「自傷行為だから健康保険は使えません」
という説明は不正確です。
医療機関や薬局が自傷行為という事実だけをもって一律に保険適用外と判断するべきではありません。
犯罪をしている最中にケガをしたら?
国民健康保険法第60条では、
「自己の故意の犯罪行為」によって疾病・負傷した場合
についても給付を行わないとされています。
ここは第61条のケンカや泥酔とは表現が異なります。
- 故意の犯罪行為・故意の負傷 → 「給付を行わない」
- 闘争・泥酔・著しい不行跡 → 「全部又は一部を行わないことができる」
という違いがあります。
つまり、すべての「本人に責任があるケガ」を一括して保険適用外としているわけではなく、法律上も原因によって給付制限の仕組みが分けられています。
労災でも「故意」は問題になる
故意による負傷は、医療保険だけの問題ではありません。
労災でも、労働者が故意に災害を発生させた場合には、通常の業務災害とは認められません。
厚生労働省の労災保険給付の解説でも、事業主の支配・管理下で業務に従事している場合であっても、「労働者が故意に災害を発生させた場合」は業務災害と認められないケースとして示されています。
つまり、
「仕事中なら何でも労災」
というわけでもありません。
健康保険が使えないケガを整理すると
大まかには次のように整理できます。
| ケガの原因 | 基本的な考え方 |
|---|---|
| 日常生活での事故・不注意 | 健康保険○ |
| 自分の操作ミスによるケガ | 健康保険○ |
| 労働者の業務災害 | 原則として労災 |
| 労災給付を受けられない人の仕事中のケガ | 健康保険の対象となり得る |
| 故意に自分を負傷させた | 原則として給付制限 |
| 精神疾患等に起因する自殺未遂 | 健康保険等の給付対象となり得る |
| 故意の犯罪行為による負傷 | 原則として給付されない |
| ケンカ(闘争)による負傷 | 全部または一部が制限されることがある |
| 泥酔による負傷 | 全部または一部が制限されることがある |
| 第三者から一方的に暴行された | 「ケンカ」と即断せず第三者行為も検討 |
薬局では「保険が使えません」と即断しない
薬局で注意したいのは、患者から事情を聞いた時点で、
「それは労災だから健康保険は使えません」
「ケンカだから保険は使えません」
「自傷だから自費です」
などと即断しないことです。
たとえば「仕事中のケガ」一つとっても、
- 労働者なのか
- 自営業者なのか
- 労災保険の対象なのか
- 労災の特別加入者なのか
- 本当に業務を原因とする負傷なのか
などによって扱いが変わります。
ケンカについても、一方的な暴行の被害者なのか、双方が積極的に争っていたのかで事情は異なります。
自傷行為についても、精神疾患等に起因するものかどうかによって保険給付の扱いが変わります。
したがって、薬局で原因を把握した結果、通常の保険診療でよいのか疑問が生じた場合には、患者本人や医療機関、保険者などに確認することが重要です。
「自分が悪い=保険が使えない」ではない
健康保険が使えるかどうかを考える際、
「誰が悪いのか」
という発想で考えると混乱します。
交通事故でも、スポーツ中の事故でも、自分の不注意によるケガでも、本人に何らかの責任があるからという理由だけで健康保険が使えなくなるわけではありません。
考えるべきなのは、
① 他の制度、特に労災から給付を受けるべき傷病ではないか
② 故意の犯罪行為や故意の負傷に該当しないか
③ 闘争・泥酔・著しい不行跡など、給付制限の対象になり得ないか
という点です。
そして、自傷行為についても「故意」という言葉だけで判断せず、精神疾患等に起因する自殺未遂については保険給付の対象になるという厚生労働省の取り扱いを知っておく必要があります。
「仕事中」「ケンカ」「泥酔」「自傷」。
どれも一言だけで「保険が使える・使えない」と決めることはできません。
薬局では、傷病が生じた背景を確認したうえで、判断が難しいケースでは保険者などに確認することが重要です。
参考資料
- 国民健康保険法 第56条、第60~63条(厚生労働省・e-Gov法令検索)
- 厚生労働省「自殺未遂による傷病に係る保険給付等について」
- 厚生労働省「労働者でない者の業務上の負傷等に係る健康保険と労災保険の適用関係について」
- 厚生労働省「労災保険に関するQ&A」



