記事
SGLT2阻害薬とデリケートゾーンの副作用:尿路感染症・外陰部感染症
公開. 更新. 投稿者: 43 ビュー. カテゴリ:糖尿病.この記事は約4分46秒で読めます.
目次
SGLT2阻害薬とデリケートゾーンの副作用:尿路感染症・外陰部感染症に注意

SGLT2阻害薬は、2型糖尿病の治療薬として登場して以来、心不全や慢性腎臓病領域でも適応が拡大し、いまや生活習慣病治療の中核を担う薬剤群となっています。
その一方で、特徴的な副作用として 尿路感染症や性器感染症 があり、患者指導の重要なテーマになっています。特に「デリケートゾーン」に関わる症状は患者が自己申告しづらく、また薬剤師が意識して確認しなければ見落とされがちです。
SGLT2阻害薬の作用機序と感染リスク
SGLT2阻害薬は、腎臓の近位尿細管に存在するナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)を阻害し、再吸収されるはずのブドウ糖を尿中に排泄します。その結果:
・尿糖排泄増加 → 血糖値低下
・尿中のブドウ糖濃度上昇 → 細菌や真菌の栄養源となる
この仕組みにより、患者は血糖コントロールの改善を得る一方、尿路感染症や外陰部感染症に罹患しやすくなるのです。
尿路感染症:膀胱炎・腎盂腎炎
発症要因
・女性は尿道が短く解剖学的に細菌が膀胱へ侵入しやすい
・糖尿病そのものが感染リスクを高める(好中球機能低下・高血糖環境)
・SGLT2阻害薬の尿糖排泄作用で細菌繁殖の環境が整う
症状
・排尿痛、頻尿、残尿感(膀胱炎)
・発熱、悪寒、背部痛(腎盂腎炎)
臨床対応
・抗菌薬治療
・脱水予防と水分摂取の指導
・再発予防のための清潔保持指導
薬剤師としては、服薬指導時に「最近、排尿時に痛みや違和感はありませんか?」と聞き出すことが重要です。
外陰部感染症:亀頭包皮炎・膣カンジダ症
発症メカニズム
尿糖による真菌繁殖が主因。特にカンジダによる感染が代表的です。
・男性:亀頭包皮炎 → 発赤・かゆみ・腫脹・白色分泌物
・女性:膣カンジダ症 → 外陰部のかゆみ・おりもの増加
包皮への影響
男性では炎症を繰り返すことで包皮が硬化し、包茎様の状態を呈することがあります。これはジャディアンスなどのSGLT2阻害薬に特有ではなく、尿糖増加という機序から生じる副作用です。患者自身は「薬のせい」とは思わず、年齢や体質の問題と誤解するケースが少なくありません。
重篤な合併症:フルニエ壊疽
2019年5月、添付文書に「フルニエ壊疽」が追加され、医療現場に衝撃を与えました。
フルニエ壊疽とは?
・外陰部や会陰部に生じる壊死性筋膜炎
・発症は稀だが進行は急速で致死率も高い
・Fournierが1883年に報告した疾患で、細菌感染が皮下組織から筋膜へ進展し、壊死とガス産生を伴う
症状
・陰部や会陰部の強い痛み
・発赤、腫脹、膿の排出
・発熱、敗血症性ショックに進行することも
SGLT2阻害薬服用者では、尿糖排泄に伴う外陰部の感染リスクが増大し、この稀な疾患につながる可能性があります。発症頻度は非常に低いですが、見逃すと致命的です。
現在使用されているSGLT2阻害薬一覧
・スーグラ(イプラグリフロジン L-プロリン)
・カナグル(カナグリフロジン)
・フォシーガ(ダパグリフロジン)
・ジャディアンス(エンパグリフロジン)
・デベルザ(トホグリフロジン)
・ルセフィ(ルセオグリフロジン)
配合剤も多く登場しています:
・カナリア配合錠(テネリグリプチン/カナグリフロジン)
・スージャヌ配合錠(シタグリプチン/イプラグリフロジン)
・トラディアンス配合錠(リナグリプチン/エンパグリフロジン)
これらは糖尿病だけでなく、心不全や腎症での適応拡大により今後ますます処方が増加するため、副作用対策は薬剤師にとって必須知識です。
患者が訴えにくい「むずむず感」
SGLT2阻害薬の服薬中に患者が感じやすい症状として、「性器周囲のむずむず感」「排尿時の違和感」があります。しかし、恥ずかしさから自己申告されにくく、医療者側から聞き出さなければスルーされがちです。
薬剤師が処方箋を渡すときに、
「排尿のときに痛みや違和感があれば早めに教えてください」
「陰部にかゆみや赤みが出た場合は我慢せずに受診してください」
とあらかじめ伝えておくことで、早期対応が可能になります。
薬剤師の服薬指導ポイント
尿路・性器感染症のリスクを必ず説明
→ 「尿に糖が出るため、感染しやすくなります」
症状の早期発見を促す
→ 排尿痛、頻尿、陰部のかゆみ・赤み・むずむず感を聞く
清潔保持と水分摂取をアドバイス
→ 下着の交換、シャワーで洗浄、脱水予防
重篤症状への注意喚起
→ 発熱や強い陰部痛、膿が出る → 速やかに医療機関へ
泌尿器科受診歴の確認
→ 尿路系疾患で通院中の患者はリスクが高い
まとめ
SGLT2阻害薬は血糖改善や心腎保護作用に優れた薬剤ですが、尿路感染症・外陰部感染症というデリケートな副作用がつきまといます。
男性では亀頭包皮炎から包茎様の症状につながることもあり、女性では膣カンジダ症が問題となります。さらにごく稀ながら致死的なフルニエ壊疽の報告もあるため、薬剤師は患者への説明と観察を欠かせません。
「ちょっと恥ずかしいから言い出しにくい症状」こそ、薬剤師が積極的に声をかけることで早期発見につながります。SGLT2阻害薬の安全使用のため、デリケートゾーンの副作用にしっかり目を向けましょう。



