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ベルソムラ錠10mgはどんな患者に使う?
公開. 更新. 投稿者:睡眠障害.この記事は約6分35秒で読めます.
6,953 ビュー. カテゴリ:ベルソムラ錠10mg
いつの間にかベルソムラ錠に10mgという規格が追加されていた。
ベルソムラは15mgと20mgという規格があったが、これに10mgが追加された形だ。
通常成人には20mgが使われる。
高齢者には15mgが使われる。
高齢者では、非高齢者と比べて血中濃度が高くなる傾向があるためだ。
ベルソムラの用法用量は、
「通常、成人にはスボレキサントとして1日1回20mgを、高齢者には1日1回15mgを就寝直前に経口投与する。 」
となっている。
じゃあ10mgは誰に使うの?
用法及び用量に関連する使用上の注意に以下のように書かれている。
CYP3Aを阻害する薬剤 (ジルチアゼム、ベラパミル、フルコナゾール等) との併用により、スボレキサントの血漿中濃度が上昇し、傾眠、疲労、入眠時麻痺、睡眠時随伴症、夢遊症等の副作用が増強されるおそれがあるため、これらの薬剤を併用する場合は1日1回10mgへの減量を考慮するとともに、患者の状態を慎重に観察すること。
CYP3Aを阻害する薬剤、ジルチアゼム(ヘルベッサー)、ベラパミル(ワソラン)、フルコナゾール(ジフルカン)等を併用している患者には10mgを使ってください、というわけだ。
・・・
CYP3Aを強く阻害する薬剤、イトラコナゾール(イトリゾール)、クラリスロマイシン(クラリシッド)、リトナビル(ノービア)、サキナビル(インビラーゼ)、ネルフィナビル(ビラセプト)、インジナビル(クリキシバン)、テラプレビル(テラビック)、ボリコナゾール(ブイフェンド)の場合は併用禁忌なので、用量を少なくしても併用はできない。
例えば医師が併用薬を調べて、「これはCYP3Aを阻害する薬だからベルソムラは10mgを使おう」という考えに至るのだろうか?
これも一種のジェネリック対策というだけなのだろうか。
肥満者には10mg
ベルソムラのインタビューフォームに、女性や肥満患者に投与した際の血中濃度が書かれている。
2) 性別
本剤20mgを不眠症患者に反復投与した際の定常状態でのスボレキサントのC9hrは、男性患者で 0.335 µM及び女性患者で 0.351 µMであり、同程度であった。本剤40mgを投与した際の薬物動態をPPKモデルにて解析した結果、定常状態でのスボレキサントの C9hrは、男性に対して女性で約5%増加した。
3) BMI
本剤20mgを不眠症患者に反復投与した際の定常状態でのスボレキサントのC9hrは、低体重患者(BMI:18.5 kg/m2 未満、6 例)で 0.171 µM、標準 BMI(18.5 kg/m2 以上、25 kg/m2未満、139例)の患者で 0.323 µM、前肥満患者(BMI:25 kg/m2以上、30 kg/m2未 満、94例)で 0.384 µM及び肥満患者(BMI:30 kg/m2以上、42例)で 0.353 µMであった。
本剤40mgを投与した際の薬物動態を PPK モデルにて解析した結果、定常状態で のスボレキサントの C9hrは、標準 BMIに対して肥満患者で約19%増加した。
ベルソムラは脂溶性が高く、日本人は20mgが常用量となっているが、アメリカ人は10mgなのだそうだ。
しかし販売にいたる経緯にはいろいろあったようだ。
新規不眠症治療薬 スボレキサント(ベルソムラ錠) | アポネットR研究会・最近の話題
なお昨年12月、日本でも10mg錠が追加発売されましたが、用法・用量に変更はありません。10mg錠の添付文書上の位置づけは、あくまでも高血圧治療薬ジルチアゼムなどの薬物代謝酵素CYP3A阻害剤との併用で、本剤の血中濃度が上昇してしまうのを避けることが目的です。しかし、薬物相互作用以外の理由でも、「一時的に減薬して治療が継続できるよう10mg錠の開発が必要である」と、本剤承認時にPMDAが指摘しています。
副作用モニター情報〈477〉 ベルソムラ錠の副作用 第2報 – 全日本民医連
日本人でも太った患者さんには10mgがよさげ。
ベルソムラは使いにくい?
薬剤師たるもの併用禁忌は見逃してはならない。
個人的に併用禁忌の代表格と思っているのが、ハルシオン↔イトリゾールの相互作用です。
皮膚科で処方されるイトリゾールと、精神科あるいは内科など幅広い診療科で処方されるハルシオンは、患者から併用薬の聴取がされていなければ別々の医師から処方される可能性も高い。
諸悪の根源は、安易な睡眠薬の処方かも知れない。
高齢者に安易に睡眠薬を処方すべきではないが、現実問題、不眠に悩まされる高齢者あるいはその家族は多いので、仕方ない。
睡眠薬の併用禁忌は比較的多いので、見逃さないようチェックする。
ハルシオンの併用禁忌
イトラコナゾール(イトリゾール)、フルコナゾール(ジフルカン)、ホスフルコナゾール、ボリコナゾール(ブイフェンド)、ミコナゾール(フロリード)、HIVプロテアーゼ阻害剤(インジナビル、リトナビル等)、エファビレンツ、テラプレビル(テラビック)
ロゼレムの併用禁忌
フルボキサミンマレイン酸塩(ルボックス、デプロメール)
ベルソムラの併用禁忌
イトラコナゾール(イトリゾール)、クラリスロマイシン(クラリス)、リトナビル、サキナビル、ネルフィナビル、インジナビル、テラプレビル(テラビック)、ボリコナゾール(ブイフェンド)
ユーロジンの併用禁忌
リトナビル(HIVプロテアーゼ阻害剤)
ダルメートの併用禁忌
リトナビル
ドラールの併用禁忌
リトナビル、食物
ベンゾジアゼピン系ではハルシオンだけが併用禁忌薬が多く、他はドラールの食物には注意しないといけないが、特に注意すべきものはない。
ロゼレムとフルボキサミン(ルボックス、デプロメール)は注意すべきですが、同じ医師から処方される可能性が高いので危険性は薄い。しかし、最近は精神系の知識の薄い内科医でも抗うつ薬を処方するので、注意が必要である。フルボキサミンには他の併用禁忌もあるので、フルボキサミン処方時には要注意。
新規睡眠薬のベルソムラも併用禁忌が多い。
特にクラリスの処方頻度はイトリゾールよりも高いので、クラリス↔ベルソムラの相互作用はいつか調剤ミスで上がってきそう。
クラリスはCYP3Aを強く阻害し、ベルソムラの血漿中濃度を上昇させる。
自分以外の医師からクラリスが処方される可能性を危惧すると、ベルソムラはなかなか処方しづらい。
ベルソムラとグレープフルーツジュース
ベルソムラの添付文書に「グレープフルーツジュース」の記載はないが、MSDのホームページのQ&Aには、
ベルソムラ®服用中はグレープフルーツジュースを控えるようにご指導ください。
ベルソムラ®はCYP3Aにより代謝されますが、CYP3Aを阻害するグレープフルーツジュースとの併用の成績がなく、飲む量や併用した場合の影響が不明であることから、具体的には記載しておりません。
と記載されている。
スボレキサントは、薬物代謝酵素CYP3Aの基質になることが知られている。スボレキサントの添付文書には、CYP3Aを強く阻害する薬剤は禁忌され、CYP3Aを中等度に阻害する薬剤も併用注意となっている。
実際、禁忌となっている薬剤との併用により、AUCが2倍以上になる可能性がある。副作用として第Ⅲ相試験において承認用量を投与された群では報告がないが、承認用量より多い量(非高齢者40mg/日、高齢者30mg/日)を投与された1291例のなかで睡眠時随伴症および夢遊病が報告されている。このことを考えると、併用による作用増強は副作用の発生に影響する可能性があるので、中等度の阻害薬剤との併用についても高齢者に対しては慎重でありたい。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
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