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CRPが高ければ抗菌薬を使う?炎症マーカーと抗菌薬使用の考え方
公開. 更新. 投稿者: 6,599 ビュー. カテゴリ:抗菌薬/感染症.この記事は約4分10秒で読めます.
目次
CRPが高ければ抗菌薬を使うべきか?

「CRPが高いから抗菌薬を投与しましょう」
外来や入院の現場で、こうしたやり取りを耳にすることは少なくありません。CRPは炎症の有無を知る上で非常に便利な指標ですが、その数値だけで抗菌薬の要否を判断してよいのでしょうか。
CRPと感染症の関係、抗菌薬をいつまで続けるか、溶連菌感染症など例外的に注意が必要なケース、そして耐性菌との関わりなどを勉強していきます。
CRPとは何か
CRP(C-reactive protein:C反応性タンパク質)は、炎症や組織障害が生じた際に肝臓で産生され、血中に増加する急性期反応物質です。肺炎球菌の細胞壁成分に由来する「C多糖体」と反応することから、この名がつけられました。
炎症の有無を客観的に示すマーカーとして、感染症の診断や治療効果判定に広く用いられています。
CRPの基準値と臨床的解釈
・0.3mg/dl以下:基準範囲
・0.4〜0.9mg/dl:軽度の炎症が疑われる
・1.0〜2.0mg/dl:中程度の炎症の可能性
・2.0〜15.0mg/dl:より強い炎症反応
・15.0〜20.0mg/dl以上:重症感染症や重大な疾患の可能性
ただし、CRPは「炎症の程度」を反映するものの、「感染の有無」を直接的に示すわけではありません。リウマチなどの膠原病や外傷、心筋梗塞など感染症以外でも上昇するため、CRPが高い=抗菌薬が必要と短絡するのは危険です。
CRPが下がるまで抗菌薬を続けるべきか?
臨床現場でよく見られる誤解に、「CRPが陰性化するまで抗菌薬を続ける」という考えがあります。しかし、これは必ずしも正しいわけではありません。
抗菌薬は炎症を直接抑える薬ではなく、あくまで細菌を排除するための薬です。炎症が鎮まる過程は、免疫反応や組織修復に依存しているため、CRPはしばらく高値を示すことがあります。
症状やバイタル、画像所見などで回復傾向が確認できるなら、CRPがまだ高値でも抗菌薬を中止してよいケースは少なくありません。
「抗菌薬は飲み切らなければならない」の真実
一般に処方時、「症状がなくなっても抗生物質は飲み切ってください」と指導されることが多いです。その背景には以下の理由があります。
・菌が残存すると再燃のリスクがある
・中途半端な中止で耐性菌を生む可能性がある
一方で、近年の感染症学の知見では、「症状が改善したら早期に中止してよい」とされるケースも増えてきました。元気を取り戻した患者に抗菌薬を漫然と投与し続ければ、腸内細菌叢への影響や耐性菌増加のリスクが高まります。
つまり、“飲み切り”が必須なのは一部の疾患に限られると理解しておくことが重要です。
溶連菌感染症は例外 ― 抗菌薬を飲み切るべき理由
代表的な例外が「溶連菌感染症」です。咽頭炎を起こすA群β溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)は、適切な抗菌薬投与を怠ると重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
抗菌薬を飲み切るべき理由
・リウマチ熱や急性糸球体腎炎などの続発症を予防するため
・周囲への感染拡大を防止するため
・再燃を防ぐため
このため、ペニシリン系抗菌薬を10日間服用するのが標準です。
投与期間を短縮する試み
・セフェム系を用いた5日間投与
・アジスロマイシンのような長時間作用型マクロライドを3日間投与
といった短縮療法も提案されていますが、リウマチ熱予防に関するエビデンスは十分ではありません。さらに日本ではマクロライド耐性溶連菌が増加しており、第一選択から外れることが多いのが現状です。
治療後には2〜3週間後の尿検査で腎炎の有無を確認することも臨床上重要です。
溶連菌後糸球体腎炎は抗菌薬で予防できない
注意すべきは、抗菌薬を正しく服用しても溶連菌感染症後糸球体腎炎の発症は防げない点です。抗菌薬で防げるのはリウマチ熱であり、腎炎については発症メカニズムが異なるため、別途の経過観察が必要になります。
耐性菌とミュータント・セレクション・ウインドウ(MSW)
抗菌薬を不用意に使い続けると、薬剤耐性菌の増加を招きます。その理解に役立つのが Mutant Selection Window(MSW) の概念です。
・MIC(最小発育阻止濃度):菌の増殖を阻止できる最小濃度
・MPC(変異株出現阻止濃度):耐性菌が出現しないように抑え込める濃度
MICとMPCの間の濃度領域を「MSW」と呼びます。この領域で投与すると、通常の菌は死滅しても、耐性菌だけが生き残り、選択的に増加してしまいます。
つまり、中途半端な用量や期間での抗菌薬投与は耐性菌育成の温床となるのです。
耐性菌は「コストが高い」
耐性菌は薬剤排出ポンプや分解酵素などを作り出すために余分なエネルギーを消費します。そのため、薬剤が存在しない環境では、むしろ「耐性を持たない菌」の方が生存に有利です。
したがって、抗菌薬を使わなければ自然と耐性菌は減少していくことも多く、必要のない抗菌薬を使わないこと自体が耐性菌対策になるといえます。
まとめ
・CRPは炎症マーカーであり、抗菌薬投与の是非を単独で決める指標ではない。症状や臨床所見の改善を重視すべき。
・抗菌薬は症状が改善すれば中止可能なケースが多い。漫然と飲み切る必要はない。
・溶連菌感染症は例外。リウマチ熱予防のため、処方どおりに飲み切ることが重要。
・中途半端な抗菌薬使用は耐性菌を増やすリスクがある。MSWの概念を理解して適切な投与を心がける。
・耐性菌は薬がなければ不利。抗菌薬を不要に使わないこと自体が最大の耐性菌対策。
CRPの数値に一喜一憂するのではなく、患者の全身状態や臨床経過を見ながら抗菌薬を適切に使うことが、医療者に求められる姿勢といえるでしょう。




4 件のコメント
はじめまして。ドラッグストアでアルバイトをしているものです。楽しく読ませてもらっています。記事がたくさんで、すごいですね!
浅学でお恥ずかしいのですが、溶連菌以外であれば、症状が治れば薬は止めてもいいというソース(論文など)はございますか?
もしよろしければ、ご教示いただけましたら幸いです。
コメントありがとうございます。
症状が治れば抗生剤の服用をやめてもいいのではないか?というのは個人的な見解であり、これといった論文ソースはございません。
抗生剤の勉強会でちらりと聞いたような記憶がありますが。
ご回答くださりありがとうございます。以前、抗生剤で気になる使い方をしている患者さんがいたので、上記の記事内容と関連があるのかと思い質問させていただきました。ありがとうございます!勉強になりました。
急性膀胱炎における抗菌剤の臨床的検討の方法
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnjurol1928/69/1/69_1_15/_pdf
膀胱炎に対してですが、やや親しい論文を発見しました