2025年8月11日更新.2,576記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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高齢者はこまめに水分補給が必要?

水を飲んでも転ぶ、水を飲まなくても危険?

高齢者の健康管理において「こまめな水分補給」が推奨されることはよく知られています。特に夏場は熱中症予防、冬場は脳梗塞や血栓予防のため、水をしっかり飲みましょうと言われます。

しかし、同時に「夜中に何度もトイレに起きる」「転倒して骨折」「寝たきり」など、水を飲んだことで生じるリスクも無視できません。

では、高齢者にとって本当に良い水分の摂り方とは何か?

高齢者に水分補給が必要な理由

まず、水分補給の重要性を改めて確認しておきましょう。高齢者では以下のような理由から、脱水状態になりやすくなっています。

● 加齢による体内水分量の減少
高齢になると体内の水分量が減りやすくなり、喉の渇きの感覚も鈍くなります。そのため、脱水が進行していても自覚しにくい傾向があります。

● 腎機能の低下
高齢になると腎臓の濃縮力が低下し、尿で水分が失われやすくなるため、より多くの水分補給が必要になります。

● 脳梗塞や血栓症のリスク
脱水によって血液が粘稠(ねんちょう)になると、脳梗塞や深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)などのリスクが増加します。特に夏場の脱水は命に関わるケースもあります。

一方で、夜間頻尿のリスクも
水分を多く摂ることで起こりやすい問題のひとつが、夜間頻尿です。

夜間に何度もトイレに起きることで睡眠の質が低下するだけでなく、ベッドからの移動でふらつきや転倒、骨折という二次的な問題が発生することがあります。これは「転倒 → 骨折 → 入院 → 寝たきり」という負の連鎖のきっかけにもなります。

夜間頻尿は水分摂取だけが原因ではありませんが、水分を「いつ」「どのように」摂取するかが非常に重要なポイントになります。

水分摂取の目安:どれくらい飲めばいい?

健康な成人の場合、1日に必要とされる水分量は以下の通りです。

区分 量(mL/日) 備考
尿 約1,500 腎機能により変動
糞便 約100 個人差あり
不感蒸泄(汗・呼気) 約900 活動量や気温により変動
代謝水 約300 食事由来など

したがって、1日あたりの水分排出量は約2,500mL。体内で産生される代謝水を差し引くと、食事や飲み物から約2,200mLの水分補給が必要になります。

高齢者ではどうか?
加齢により活動量が減ると、発汗や呼気による水分損失もやや減少します。食事から得られる水分量も含めて考えると、1500~2000mLを目安にすると良いと考えられています。

「こまめに」「就寝前は控える」が原則
水分補給のポイントは、「一度に大量に飲む」のではなく、「こまめに」飲むことです。特に高齢者にとっては、以下のようなルールが現実的かつ安全です。

● 朝起きてすぐ:コップ1杯(200mL程度)
→ 寝ている間に失われた水分の補給に。

● 食事中・食後:各回200~300mL
→ 食事に含まれる水分と併せて補給。

● 午前・午後の活動時間:合計500~600mL程度
→ こまめに少量ずつ飲むことが大切。

● 就寝3時間前までに水分を終了
→ 夜間のトイレ回数を減らすため。

このように、1日1500~2000mLを目安に、分散して摂取することで、脱水を防ぎつつ夜間頻尿も回避することが可能です。

夜寝る前にたくさん飲んでも意味がない?

「夜寝る前にたくさん水を飲んでおけば、夜間の血液ドロドロを防げる」といった情報を見かけることがありますが、これは根拠が乏しいとされています。

実際には、夜間に大量の水分を摂取しても、すぐに尿として排出されるだけであり、血液の粘稠度にはほとんど影響しないというデータもあります。

むしろ、頻尿による中途覚醒や転倒リスクを高めるだけなので、就寝直前の大量摂取は避けるべきです。

転倒予防の視点から考える

高齢者の転倒は、たった1回で人生を大きく変えてしまう可能性があります。骨折や頭部外傷、手術、長期入院といった事態は、水分の摂り方ひとつでも防げる場合があります。

夜間頻尿がある方は、以下の対策を試みるとよいでしょう。

・利尿効果のある飲み物(コーヒー・お茶・アルコール)を控える
・就寝3時間前から水分摂取を控える
・夜間トイレの照明・動線確保
・軽度の尿失禁には尿パッドやパンツ型おむつも検討

水分摂取を控えすぎて脱水になるよりも、「摂り方」の工夫によって安全性を確保することが重要です。

「脱水」と「頻尿」のどちらが危険か?

水分補給と夜間頻尿は、どちらも軽視できないリスクです。だからこそ、極端な対策ではなくバランスの取れた調整が必要です。

リスクと対応策
・脱水(夏場・発熱時):意識的にこまめな水分補給を行う。1日6~8回程度。
・夜間頻尿・転倒:就寝3時間前からの水分制限。夜間の環境整備。
・飲みすぎによる低ナトリウム血症:1日3000mL以上の摂取は注意。水中毒リスクあり。

まとめ:水分補給は「質」と「タイミング」

高齢者にとって水分補給は命に関わる大切な習慣ですが、やみくもに水をたくさん飲めば良いというわけではありません。

・脱水を防ぐために1日1500~2000mLを目安に
・こまめな摂取が原則で、一気飲みはNG
・夜間の排尿を減らすためには就寝前の水分を控える
・自宅内の転倒リスクを下げる環境整備も併せて行う

これらを意識することで、「水を飲むことで健康を守る」だけでなく、「水を飲むことで事故が起きる」ことも未然に防げます。適切な水分補給は、正しい知識と工夫から生まれるのです。

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