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1回に飲む量が多い薬
公開. 更新. 投稿者: 36 ビュー. カテゴリ:調剤/調剤過誤.この記事は約4分42秒で読めます.
目次
「飲む量が多い薬」=「強い薬」ではない

薬局では時々、患者さんからこんな声を聞きます。
「この薬、なんでこんなにたくさん飲むの?」
「多いってことは、それだけ強い薬なの?」
実際、リパクレオンを1回に4カプセル、クレメジンを10カプセル、ヨクイニンを6錠、クラシエ漢方を6錠──。
確かに多く感じます。
しかし、「1回に飲む量が多い薬」は、決して“強い薬”という意味ではありません。
多くの場合、薬の性質や作用が「量」で決まるからです。
消化酵素:体内に吸収されない“量で効く”薬
リパクレオン(パンクレリパーゼ)
用量:1回3〜4カプセルを毎食時
用途:膵外分泌不全における消化酵素補充
特徴:脂質の多い食事では量を増やす
リパクレオンは体内に吸収されず、腸で食べ物を分解する薬。
つまり、血中濃度ではなく「腸内での存在量」が効果を左右します。
消化酵素の濃度が十分でないと脂肪を分解しきれず、下痢や脂肪便につながります。
生薬・漢方薬:エキス量で決まる“天然素材系”の多量服用
ヨクイニンエキス錠
用量:1回3〜6錠、1日3回
用途:いぼ、肌荒れ、ニキビなど
特徴:1錠あたりのエキス量が少なく、多錠設計
ヨクイニンはハトムギ由来の生薬で、1錠あたりの有効成分が少ないため、1日9〜18錠が標準です。
生薬由来成分は分子が大きく、錠剤に詰められる量に限界があるのです。
クラシエ漢方エキス錠シリーズ
用量:1回6錠(1日18錠)
用途:葛根湯、小青竜湯、加味逍遥散などさまざま
特徴:細粒1包(2.0g)=錠剤6錠相当
つまり、細粒で1包飲む人は、錠剤なら6錠飲むことになります。
錠剤は飲みやすい反面、1錠あたりのエキス量が少ないため、どうしても多錠になります。
吸着剤:量で勝負する“腸内で働く薬”
クレメジン(球状吸着炭)
用量:1回2g(200mg×10カプセル)×3回=1日6g
用途:慢性腎不全における尿毒素吸着
特徴:腸内で老廃物を吸着し、便として排泄
この薬は体に吸収されない薬の代表格。
効果は吸着面積に比例するため、量が少ないと効かない構造です。
カプセル剤では1回10個、細粒なら2gを飲む必要があります。
クレメジン速崩錠500mg
用量:1回4錠×3回=1日12錠
特徴:飲みやすく改良されても依然として多量。
粉砕・分包しにくいため、水分と一緒に素早く飲むのがコツ。
レナジェル/フォスブロック(セベラマー塩酸塩)
用量:1回4〜8錠(1〜2g)×3回
用途:高リン血症(透析患者)
特徴:食事中のリンを吸着して体内に入れない。
カリメート/ケイキサレート/ロケルマ
用途:高カリウム血症
用量:1回5〜10g
特徴:カリウムを吸着して排泄する薬。粉末が多く量も多い。
吸着剤はすべて「体に入らない」=「量が必要」な薬です。
吸収阻害のため、他の薬とは2時間以上あけることも大事なポイント。
配合剤:成分バランスと安定性が理由
フスコデ配合錠
用量:1回3錠(1日3回)
成分:ジヒドロコデインリン酸塩・dl-メチルエフェドリン塩酸塩・クロルフェニラミンマレイン酸塩
理由:各成分を適正比率で配合しており、3錠で1セットの効果。
マヴィレット配合錠
用量:1回3錠(1日1回・食後)
用途:C型肝炎治療
特徴:1錠あたりの安定性確保のため3錠構成。
効果:1日1回3錠×8週間でウイルス除去率99%以上。
「1回に飲む量が多い薬」が多い理由
原因と説明
① 吸収されない薬(腸で働く) クレメジン・レナジェルなど。:表面積が効き目。
② 有効成分が天然素材 :漢方・生薬は成分密度が低い。錠数で補う。
③ 錠剤サイズの限界 :大きくしすぎると嚥下困難。分割して複数錠に。
④ 成分の安定性・相互作用 :配合剤では分けて安定性を保つ。
⑤ 医薬品設計の伝統 :「顆粒換算」「力価換算」など歴史的経緯も。
患者指導のコツ:多いことを前向きに伝える
・「多い=強い」ではなく「多い=作用に必要な量」と説明。
・服用タイミングを明確に:吸着剤は食直前/漢方は食前/リパクレオンは食中。
・十分な水分と一緒に:のどへの付着・便秘防止に効果的。
・飲み忘れ防止の工夫:1回量をまとめるピルケースや朝昼夕袋が有効。
・味やにおいの不快感への配慮:粉薬は水やゼリー、ヨーグルトで飲む工夫を提案。
まとめ:多いには「意味」がある
「1回に飲む量が多い薬」は、実は薬理的に合理的な設計です。
・消化酵素や吸着剤は作用に面積や量が必要。
・漢方や生薬は天然由来で密度が低い。
・配合剤は複数成分を正しい比率で入れるため。
多錠や多包でも、それは「効かせるための設計」。
患者が安心して飲めるよう、“なぜ多いのか”を伝えることが薬剤師の役割です。
薬の「多さ」は一見不安材料に見えますが、そこには明確な薬理的理由があります。
「多く飲まないと効かない薬」と「少なくても効く薬」を見分けて伝えるのも、薬剤師の大切な仕事。
「こんなに多いのはなぜ?」と聞かれたとき、
「この薬は“量で効く薬”なんですよ」と一言添えられると、
患者さんの安心感はぐっと高まります。




