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ステロイドでうつ病になる?
公開. 更新. 投稿者: 7,689 ビュー. カテゴリ:免疫/リウマチ.この記事は約7分0秒で読めます.
目次
ステロイドでうつになる?―ステロイド精神病と精神症状

ステロイドを飲んでいる患者から、
「最近、気分が落ち込む」
「眠れなくなった」
「なんとなくイライラする」
と言われたら、原疾患によるストレスだけが原因とは限らない。
ステロイドそのものが原因かもしれない。
副腎皮質ステロイド薬には、感染症、骨粗鬆症、糖尿病、消化性潰瘍など様々な副作用が知られているが、忘れてはいけないのが精神症状である。
しかも、ステロイドによる精神症状は「うつ」だけではない。
- 不眠
- 不安
- イライラ
- 気分の落ち込み
- 多幸感
- 軽躁・躁状態
- 幻覚
- 妄想
- 混乱
- 認知機能の低下
など、かなり幅広い。
これらはまとめてステロイド誘発性精神障害(corticosteroid-induced psychiatric disorders)**などと呼ばれる。
ステロイドを飲むとなぜ精神症状が出るのか?
副腎皮質ステロイドと「ストレス」は密接な関係にある。
人間がストレスを受けると、
視床下部
↓ CRH
下垂体
↓ ACTH
副腎皮質
↓ コルチゾール
という経路が活性化する。
これをHPA axis(視床下部―下垂体―副腎系)という。
コルチゾールはいわゆる「ストレスホルモン」の一つであり、血糖を上げたり、血圧を維持したり、炎症を抑えたりして、身体をストレスに対応できる状態にする。
プレドニゾロンなどのステロイド薬は、このコルチゾールと同じグルココルチコイド作用を人工的に強く起こす薬である。
そのため外部から大量のステロイドが入ってくると、HPA系にも大きな影響が及ぶ。
ただし、
「ステロイド→CRH低下→ノルアドレナリン低下→うつ病」
と単純に説明できるわけではない。
現在では、HPA系の調節異常に加えて、セロトニン、ドパミン、グルタミン酸などの神経伝達系への影響、さらに海馬、扁桃体、前頭前野など感情や記憶に関係する脳領域への影響が複合的に関与すると考えられている。
つまりステロイドによる精神症状は、単なる「気の持ちよう」ではなく、グルココルチコイドが脳に作用した結果として起こり得る薬理学的な副作用なのである。
ステロイドでは「うつ」より「躁」にも注意
「ステロイドで精神症状」と聞くと、うつ病をイメージするかもしれない。
しかし実際には少し違う。
ステロイドによる精神症状として、
「気分が落ち込む」
だけではなく、
「妙に元気になった」
「眠らなくても平気」
「しゃべり続ける」
「イライラして怒りっぽい」
「考えが次々浮かんで止まらない」
といった躁・軽躁症状がみられることがある。
近年のメタ解析でも、ステロイド使用者では抑うつ症状の増加が確認されている一方、投与開始後8週間以内の急性期では、躁症状のほうが抑うつ症状より現れやすいことが報告されている。
したがって薬局では、
「ステロイド→うつ」
だけで覚えるより、
「ステロイド→気分や行動が大きく変化することがある」
と覚えておいたほうがよい。
「ステロイド精神病」=幻覚や妄想だけではない
昔から「ステロイド精神病(steroid psychosis)」という言葉が使われている。
そのため、
「幻覚や妄想が出る副作用なのかな」
と思ってしまう。
しかしステロイドによる精神症状は、いわゆる精神病症状だけではない。
不眠、不安、抑うつ、躁状態、認知機能障害など非常に幅広いため、現在では「ステロイド誘発性精神障害」「コルチコステロイド誘発性神経精神症状」など、より広い概念として捉えたほうが実態に近い。
プレドニゾロン40mgが一つの目安?
ステロイドによる精神症状には、用量依存性がある。
昔からよく知られている目安が、
プレドニゾン換算40mg/日
である。
40mg/日を超えるあたりから精神症状のリスクが高くなるという古い研究があり、その後も臨床上の目安として広く引用されてきた。
ただし注意したい。
40mg未満なら安全という意味ではない。
近年の検討でも、高用量ほどリスクが高くなる傾向は支持されているものの、「40mg」という数字を明確な境界線と考えるだけの根拠は十分ではない。
10~20mg程度、さらに低用量でも精神症状の報告はある。
したがって、
「プレドニゾロン5mgだから精神症状ではない」
と用量だけで否定することはできない。
いつ起こる?
ステロイドによる精神症状は、投与開始後比較的早期に現れることがある。
そのため、
ステロイド開始・増量
↓
眠れなくなる
↓
イライラする・妙に元気になる
↓
言動がおかしくなる
という経過には注意したい。
逆に長期使用では、抑うつ症状が問題になることもある。
さらに、ステロイドを減量・中止した時期にも、倦怠感や気分の落ち込みなどが現れることがあるため、「飲んでいる間だけ」を見ればよいわけではない。
薬局で気づける「最初のサイン」は不眠かもしれない
薬剤師が服薬指導で、
「幻覚はありませんか?」
「うつ病になっていませんか?」
と聞いても、なかなか拾えない。
もっと聞きやすいのが、
「ステロイドを飲み始めてから眠れていますか?」
という質問である。
不眠はステロイドで比較的よくみられる症状であり、精神症状の一部として現れることもある。
ほかにも、
「最近いつもよりイライラしませんか?」
「気分が妙に高ぶることはありませんか?」
「逆に気分が落ち込むことはありませんか?」
など、普段との変化を聞いたほうがよい。
患者本人が変化を自覚していないこともあるため、
「家族から『最近ちょっと違う』と言われませんか?」
という聞き方も有用だろう。
ステロイドを勝手に中止してはいけない
ステロイドによる精神症状が疑われたとしても、
「ではステロイドをやめましょう」
とはならない。
長期間ステロイドを使用している患者ではHPA系が抑制されていることがあり、急に中止すると副腎不全を起こす危険がある。
また、そもそもステロイドを必要としている原疾患が悪化する可能性もある。
精神症状が強い場合には、原疾患との兼ね合いをみながら医師がステロイドの減量・変更を検討する。
減量できない場合や精神症状が重い場合には、症状に応じて抗精神病薬、気分安定薬、抗うつ薬などによる治療が検討されることもある。
したがって薬局では、
「ステロイドの副作用かもしれないので自己判断で中止せず、処方医に相談してください」
という対応が基本になる。
特に、自殺念慮、強い興奮、幻覚、妄想、著しい不眠などがみられる場合には、速やかな医療的評価が必要である。
ステロイドは糖尿病もうつ病も引き起こす?
ステロイドと糖尿病にも深い関係がある。
グルココルチコイドには、
- 肝臓での糖新生を促進する
- 筋肉や脂肪組織での糖取り込みを低下させる
- インスリン抵抗性を増大させる
などの作用がある。
そのためステロイド投与によって血糖値が上昇し、ステロイド糖尿病を発症することがある。
一方、糖尿病そのものもうつ病との関連が知られている。
糖尿病患者では、食事療法、運動療法、血糖測定、服薬、インスリン注射など日常生活で継続的な自己管理が必要になる。
さらに網膜症、腎症、神経障害など将来の合併症に対する不安もある。
そのため糖尿病とうつ病は双方向に関連すると考えられている。
ステロイドを使用している患者では、
ステロイド → 血糖上昇
だけでなく、
ステロイド → 精神症状
という方向にもアンテナを張っておきたい。
薬剤性うつ病を起こす薬はステロイドだけではない
薬によって抑うつ症状が起こることを「薬剤性うつ病」と呼ぶことがある。
ステロイドはその原因薬としてよく知られているが、薬を飲んでいる患者の気分が落ち込んだからといって、すぐに「薬剤性」と決めつけることもできない。
原疾患そのもの、疼痛、睡眠障害、社会的ストレス、他の薬剤など様々な要因を考える必要がある。
また、昔はレセルピン、β遮断薬、メチルドパなどについても「うつ病を起こす薬」として説明されることが多かった。
しかし薬剤とうつ病の因果関係に関するエビデンスは薬ごとに大きく異なる。
たとえば、
「β遮断薬を飲むとうつ病になる」
と単純化するのは現在では適切とはいえない。
同様に、
「メチルドパはα2受容体を刺激する→ノルアドレナリンが減る→うつ病になる」
という説明も、薬理作用だけから臨床的なうつ病発症を断定してしまうため注意が必要である。
薬理学的にもっともらしい説明と、実際に患者でその副作用が増えることが証明されているかどうかは分けて考える必要がある。
処方箋から「精神症状」を想像する
例えば、
プレドニゾロン5mg 8錠/日
という処方を見たらどう考えるだろうか。
薬剤師なら、
「40mgか。かなり多いな」
「感染症に注意しよう」
「血糖値は大丈夫かな」
「胃薬は?」
などを考える。
そこにもう一つ、
「眠れているかな?」
を加えておきたい。
さらに、
「最近、妙に元気になっていないか」
「イライラしていないか」
「気分が落ち込んでいないか」
まで想像できれば、ステロイド処方を見る目が変わる。
ステロイドで注意するのは、感染症、血糖値、骨粗鬆症だけではない。
ステロイドは「気分」まで変える薬である。
「ステロイドでうつになる?」
その答えは、
なることがある。ただし、うつだけではない。
むしろ薬剤師としては、
「ステロイドを開始・増量した患者では、普段と違う精神状態や行動の変化が起こる可能性がある」
と覚えておくのが実践的だろう。




1 件のコメント
コーヒーの健康科学について勉強している1薬剤師です。この記事は実によく書かれていると感服しています。原典の記載がないので推測するだけですが、「糖尿病にうつ病が合併するメカニズムに11β-HSDが関係している」と言い切れるでしょうか?これについて信頼できるデータがあるでしょうか?わかる範囲でご回答いただければ幸いです。