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前立腺肥大症に抗コリン薬は禁忌?
公開. 更新. 投稿者:前立腺肥大症/過活動膀胱.この記事は約4分42秒で読めます.
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前立腺肥大症と抗コリン薬
前立腺肥大症には抗コリン薬を投与しないというのが常識です。
尿閉になります。
なので、前立腺肥大症の患者にチアトンやブスコパンなどが処方されていたら必ず疑義照会です。
しかし、前立腺肥大症の患者に抗コリン薬が処方されることがあります。
前立腺肥大症に伴う過活動膀胱に、α1ブロッカーと抗コリン薬を使うとQOL向上に有効であるという報告があるからです。
なので、前立腺肥大症の患者にベシケアやデトルシトールが処方されていても必ずしも疑義照会する必要はないかも。
抗コリン薬の禁忌の解釈
抗コリン薬は通常、緑内障や前立腺肥大症の患者への投与は禁忌とされている。
房水の出口となる隅角の狭窄により眼圧が上がって緑内症の症状が悪化したり、膀胱の収縮力低下により前立腺肥大に伴う尿排出障害が悪化する恐れがあるためである。
しかし、緑内障の場合、眼圧が急激に上昇する恐れがある「閉塞隅角緑内障」以外は、注意して使用すれば差し支えないとされる。
前立腺肥大症でも同様に、「下部尿路に閉塞を有する前立腺肥大症」以外なら禁忌とはならないという解釈が一般的になっている。
α1遮断薬と抗コリン薬の併用療法に注意
前立腺肥大症では、急に抑えられないような強い尿意を感じる過活動膀胱も伴っていることが多い。
前立腺肥大症状の50~70%はOAB(過活動膀胱)症状を伴う。
前立腺肥大症に合併する過活動膀胱では、α1受容体遮断薬が有効であり、抗コリン薬(ムスカリン受容体遮断薬)は排尿困難を惹起させる危険もあるため、α1受容体遮断薬が第一選択薬となる。
ただし、過活動膀胱症状がα1受容体遮断薬ではあまり改善しない場合には、α1受容体遮断薬と抗コリン薬の併用が行われる場合もある。
下部尿路閉塞と排尿筋過活動を合併した症例では、α1遮断薬単独では65%に改善がみられず、その症例に抗コリン薬を併用すると73%に改善がみられたという報告がある。
また、α1遮断薬投与後もOAB症状が残存した場合には、抗コリン薬を中心としたOAB治療薬を併用すると有効という報告もある。
この併用療法は泌尿器科専門医師のもとで注意深く行われるべきである。
抗コリン薬とα1遮断薬の併用はアリか
前立腺肥大症にα1遮断薬が使われます。
そして、前立腺肥大症に抗コリン薬は禁忌。
しかし、実際には過活動膀胱を伴う前立腺肥大症には両薬剤を併用することもあります。
泌尿器科医の間でも、頻尿など畜尿障害症状がある前立腺肥大症患者に対しては、α1遮断薬と抗コリン薬の併用は標準的になっています。
α1遮断薬は「尿を出やすくする」、抗コリン薬は「尿を出にくくする」と言うと、反対の作用を持つように思われますが、厳密には相反する薬効を有するものではありません。
α1遮断薬は、主に下部尿路を弛緩させ、尿路抵抗を低下させることにより排尿困難を改善します。
尿道括約筋を弛緩させ、排尿を促す。
抗コリン薬は、主に膀胱の収縮を抑制することにより頻尿や失禁を抑制します。
膀胱平滑筋を弛緩させ、尿をためやすくする。
両方の薬を使うということは、尿を貯めるタンクを大きくして、尿を排出するホースも広げる、ということでスムーズな尿の排出に相乗効果が期待できます。
前立腺肥大症に禁忌じゃない抗コリン薬は?
抗コリン薬といえば、緑内障、前立腺肥大症に禁忌、と連想する。
しかし、抗コリン薬の禁忌項目にもそれぞれ違いがある。
医薬品名 | 前立腺肥大症 | 緑内障 |
---|---|---|
ブスコパン | 前立腺肥大による排尿障害のある患者 | 緑内障の患者 |
セスデン | 前立腺肥大による排尿障害のある患者 | 緑内障の患者 |
チアトン | 前立腺肥大による排尿障害のある患者 | 緑内障の患者 |
ロートエキス | 前立腺肥大による排尿障害のある患者 | 緑内障の患者 |
コリオパン | 前立腺肥大による排尿障害のある患者 | 緑内障の患者 |
ポラキス | 明らかな下部尿路閉塞症状である排尿困難・尿閉等を有する患者 | 緑内障の患者 |
バップフォー | 尿閉を有する患者 | 閉塞隅角緑内障の患者 |
ベシケア | 尿閉を有する患者 | 閉塞隅角緑内障の患者 |
ステーブラ | 尿閉を有する患者 | 閉塞隅角緑内障の患者 |
ウリトス | 尿閉を有する患者 | 閉塞隅角緑内障の患者 |
デトルシトール | 尿閉(慢性尿閉に伴う溢流性尿失禁を含む)を有する患者 | 眼圧が調節できない閉塞隅角緑内障の患者 |
アキネトン | なし | 緑内障の患者 |
アーテン | なし | 緑内障の患者 |
パーキン | 前立腺肥大等尿路に閉塞性疾患のある患者 | 緑内障の患者 |
スピリーバ | 前立腺肥大等による排尿障害のある患者 | 緑内障の患者 |
抗コリン薬だから、前立腺肥大症、緑内障に禁忌、とひとまとめに覚えてしまいがちですが、添付文書上のニュアンスに違いがあります。
抗コリン作用の強弱で変えているのかどうかは定かではありませんが。
吸入剤のスピリーバですら、排尿障害に禁忌の記載がありますが、アーテンやアキネトンは前立腺肥大症に禁忌ではない。
以前疑義照会した際に、「前立腺肥大症ではあるが、排尿障害の無い患者だからそのままで」という回答を得たことがあった。
なんか微妙な言い回しですが、PL顆粒やブスコパンなど必要性の低い薬であれば、処方しないほうがいいと思う。
症状 | 主な原因 | |
---|---|---|
畜尿障害 | 頻尿・(切迫性・機能性・腹圧性・逆流性)尿失禁 | 前立腺肥大(男性)過活動膀胱(OAB)骨盤底弛緩・尿道括約筋障害など |
排出障害 | 排出困難・尿閉 | 前立腺肥大(男性)、尿道狭窄・神経因性など |
抗不整脈薬の抗コリン作用
抗不整脈薬のうちクラスⅠa群に属するリスモダン(ジソピラミド)、ピメノール(ピルメノール)、シベノール(シベンゾリン)には、抗コリン作用があり、尿閉、口渇といった副作用をもつ。シシリアンガンビットの薬剤分類表を見てもM₁受容体に働く薬として、その3種類がマークされている。
抗コリン薬は、目の瞳孔を小さくする筋肉を緩めて瞳孔を開かせると同時に、眼圧を上昇させて、閉塞隅角緑内障を悪化させてしまいます。また、抗コリン薬は、尿道括約筋を収縮して尿漏れを防ぐ働きがありますが、尿が出にくくなり尿閉のリスクもある。そのため、これらの薬は「閉塞隅角緑内障、尿貯留傾向のある患者」に禁忌となっている。
緑内障や前立腺肥大症の患者に処方された際には疑義照会が必要となる。循環器内科から抗不整脈薬、眼科から緑内障治療薬、泌尿器科から前立腺肥大症治療薬と、それぞれ違う医師からの処方になるので、処方されるリスクは高い。
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1 件のコメント
前立腺肥大症と抗コリンの関係性を調べていてここにきました。
大変勉強になるブログをみつけて嬉しいです。