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尿路結石にハルナールは効くのか?α1遮断薬の排石促進効果
公開. 更新. 投稿者:痛風/高尿酸血症.この記事は約4分23秒で読めます.
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尿路結石にハルナールは効くのか?

尿路結石は非常に一般的な泌尿器疾患の一つであり、成人男性の約10人に1人が一生のうちに経験するとされています。強い疼痛を伴うことが多く、患者にとっては大きな苦痛です。そんな尿路結石の治療で、近年注目されているのが「α1遮断薬による排石促進療法」です。ハルナール(タムスロシン)を中心に、排石促進のメカニズムや適応、ガイドラインの位置づけ、女性や高齢者での使用などについて勉強します。
尿路結石の自然排石率と治療方針
尿路結石の自然排石率は、結石の大きさによって大きく異なります。
・5mm未満の結石:自然排石率 約70%
・5〜10mmの結石:自然排石率 約50%
・10mm以上:自然排石率 低下
このため、10mm未満の結石については、まずは薬物療法を含む保存的治療が推奨されることが多いのが現状です。疼痛管理にはNSAIDsなどの消炎鎮痛薬が使われ、必要に応じて鎮痙薬や水分摂取の促進が行われます。
そして最近、この保存的治療の中にα1遮断薬が加わりつつあります。
α1遮断薬とは?
α1遮断薬はもともと前立腺肥大症の治療薬として開発された薬剤で、前立腺および尿道周辺の平滑筋の収縮を抑制し、尿の通り道を広げることで排尿障害を改善します。ハルナール(一般名:タムスロシン)やユリーフ(シロドシン)、フリバス(ナフトピジル)などが代表的です。
この「尿道の緊張緩和作用」を、尿管の結石排出にも応用できるのではないか、というのが排石促進療法の発想です。尿管平滑筋もα1受容体によって支配されており、これをブロックすることで尿管が広がり、結石の移動を助けると考えられています。
ガイドラインでの位置づけ
「尿路結石症診療ガイドライン第2版」でも、α1遮断薬の使用が明記されています。
・10mm以下の尿管結石に対し、自然排石促進薬としてα1遮断薬が推奨される
・ガイドラインに記載されているエビデンスは一定の質がある(メタ解析含む)
特にタムスロシンは比較的多くの臨床試験が行われており、排石促進作用が支持されています。
α1遮断薬による排石促進のメカニズム
・尿管の蠕動運動の過剰収縮を抑制
・尿管腔を拡張させ、結石が通過しやすくする
・結石による尿管攣縮を軽減し、疼痛緩和効果も得られる
ただし、すべての患者に有効というわけではなく、結石の位置(尿管遠位部に有効という報告が多い)、大きさ、患者背景により効果の程度は異なります。
女性への使用は?
α1遮断薬は本来、男性の前立腺肥大症治療薬として承認されていますが、尿管にも作用するため、女性でも排石促進目的で使用されることがあります。正式な適応はありませんが、以下のような状況で処方されるケースがあります。
・女性の尿管結石患者で自然排石促進を期待
・但しエビデンスレベルは男性に比べやや低い
・保険適用外使用になる場合もある
一方、女性ではウロカルン(ウラジロガシエキス)が尿路結石治療薬として使われるケースが多いのも特徴です。
胆石と尿路結石の違いも重要
患者が「石ができた」と表現する場合、胆石と尿路結石を混同しているケースがあります。ここで両者の違いも整理しておきます。
【胆石】
・形成:胆汁中のコレステロールやビリルビンの沈着
・主成分:コレステロール、ビリルビンカルシウム
・食事指導:脂質制限など
【尿路結石】
・形成:腎臓内のシュウ酸カルシウム沈着が主体(約8割)
・主成分:シュウ酸カルシウム、リン酸カルシウム、尿酸結石など
・食事指導:水分摂取、シュウ酸制限、クエン酸摂取など
食事・生活指導は両者で全く異なるため、正確な診断が重要です。
尿路結石の成因と再発予防
尿路結石の形成には以下の因子が関与します。
・過剰なシュウ酸摂取(ホウレン草、ナッツ類、チョコレートなど)
・水分摂取不足
・高カルシウム尿症(ただし食事性カルシウム制限は逆効果)
・クエン酸・マグネシウムの不足(結晶抑制因子)
・メタボリックシンドローム、肥満
・遺伝的体質
以前はカルシウム摂取制限が強調されていましたが、近年では食事性カルシウムはむしろ適切に摂取する方が予防効果があるとされています(腸管内でのシュウ酸吸着による吸収抑制)。
再発予防の基本は:
・1日2L以上の水分摂取
・クエン酸(レモン水など)摂取
・シュウ酸の多い食材の摂取制限
・適切なカルシウム摂取
α1遮断薬の副作用にも注意
排石促進薬として有効性が示されているα1遮断薬ですが、副作用にも注意が必要です。
・起立性低血圧、めまい
・立ちくらみ、ふらつき
・頻尿、尿失禁感
・射精障害(男性)
特に高齢者やフレイル患者では、転倒リスクが増えるため慎重に使う必要があります。患者への服薬指導では、「立ち上がるときはゆっくり」「長時間の起立を避ける」などの日常生活上の注意点を説明することが重要です。
結石排出を促進するその他の工夫
α1遮断薬以外にも、排石促進のために以下のような工夫が勧められます。
・水分多飲(1日2〜3Lを目標)
・適度な運動(軽いジャンプ、縄跳びなど)
・NSAIDs併用による疼痛軽減
適切な疼痛管理を行うことで、患者の活動量が維持され、結果的に排石促進につながる面もあります。
まとめ
・10mm以下の尿管結石では、まずは保存的治療が第一選択となる。
・α1遮断薬(ハルナールなど)は、尿管の緊張緩和を通じて排石促進効果が期待できる。
・「尿路結石症診療ガイドライン」でも10mm以下の結石への使用が推奨されている。
・女性にも使用されるが、エビデンスは男性に比べ少ない。
・起立性低血圧などの副作用に注意が必要。
・食事指導・再発予防策も並行して行うことが重要。
尿路結石は痛みを伴う辛い疾患ですが、適切な薬物療法と生活管理を組み合わせることで、多くのケースで自然排石が期待できます。ハルナールをはじめとするα1遮断薬は、こうした保存的治療の中で重要な役割を担いつつあります。今後さらに大規模な研究が積み重ねられれば、適応拡大や女性への適用根拠も整備されていくかもしれません。
1 件のコメント
尿路結石の場合に、抗コリン薬が処方になることもあると思います。痛み目的だけでなく、排泄も期待できるのでしょうか。
痛み止めと思っていたので、飲まない日もありましたが実際は継続したほうがいいのでしょうか。