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NTM症とは?肺MAC症との違い
公開. 更新. 投稿者: 41 ビュー. カテゴリ:結核/肺炎.この記事は約10分8秒で読めます.
NTM症と肺MAC症との違い

最近、テレビなどで**「NTM症」**という言葉を耳にすることが増えてきました。
一方、薬の添付文書を見ると、
非結核性抗酸菌症
という病名が記載されています。
たとえばクラリスロマイシンの適応症にも「非結核性抗酸菌症」と記載されています。
では、NTM症と非結核性抗酸菌症は違う病気なのでしょうか?
結論からいうと、
NTM症=非結核性抗酸菌症
です。
NTMは、
Nontuberculous Mycobacteria
の略で、日本語では「非結核性抗酸菌」と呼ばれます。
さらに、NTM症の中でも特によく知られているのが肺MAC症です。
この3つの言葉の関係を整理すると、
非結核性抗酸菌症(NTM症)
↓
肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)
↓
その代表的なものが肺MAC症
となります。
NTM(非結核性抗酸菌)とは?
「抗酸菌」と聞くと、まず結核菌を思い浮かべる人が多いでしょう。
抗酸菌は細菌の一群で、結核を起こす結核菌群もこの仲間です。
しかし、抗酸菌には結核菌以外にも非常に多くの菌が存在します。
結核菌群とらい菌を除いた抗酸菌を総称して、
非結核性抗酸菌(NTM:Nontuberculous Mycobacteria)
と呼びます。
NTMは特殊な菌ではなく、土壌や水など身近な環境に広く存在する環境菌です。
そのため、
「結核菌に感染した人からうつった」
という結核とは、感染の考え方がかなり異なります。
NTM症と肺MAC症は同じ?
厳密には同じではありません。
NTMには多くの菌種があり、その中の代表的なグループが、
MAC(Mycobacterium avium complex)
です。
MACには Mycobacterium avium や Mycobacterium intracellulare などが含まれます。
そのMACによって肺に病気が起こったものが、
肺MAC症
です。
つまり、
肺MAC症は肺NTM症の一種
という関係になります。
「NTM症」という大きなグループの中に「肺NTM症」があり、その中に「肺MAC症」があると考えると分かりやすいでしょう。
肺NTM症にはMAC以外にも、Mycobacterium kansasii や Mycobacterium abscessus などによるものがあります。
なぜNTM症が増えている?
肺NTM症は近年注目されるようになっている呼吸器感染症です。
NTMは土や水などの自然環境に存在しています。
そのため、肺NTM症では結核のように「患者から感染した」というより、環境中のNTMを吸い込むことなどによって感染すると考えられています。
特にMACについては、
- 土壌
- 水
- 浴室などの水回り
といった生活環境からの曝露が研究されています。
ただし、環境中にNTMが存在しているからといって、吸い込んだ人すべてがNTM症になるわけではありません。
菌への曝露だけでなく、肺の状態や宿主側の要因など、複数の要素が発症に関係すると考えられています。
ガーデニングで肺MAC症になる?
肺MAC症についてよく話題になるのがガーデニングです。
MACを含むNTMは土壌中にも存在します。
土を扱う際には細かな土ぼこりが舞うため、その中に含まれる菌を吸入する可能性があります。
そのため、ガーデニングや農作業などの土壌への曝露と肺NTM症との関連が研究されています。
ただし、
「ガーデニングをすると肺MAC症になる」
と単純に考えるべきではありません。
NTMは身近な環境に広く存在する菌であり、感染・発症にはさまざまな要因が関係します。
お風呂から肺MAC症になる?
もう一つ注目されているのが浴室などの水回りです。
NTMは水環境にも存在し、家庭内の給水設備やシャワーなどから検出されることがあります。
シャワーなどでは細かな水滴(エアロゾル)が発生するため、それを吸入することがNTMへの曝露経路の一つとして考えられています。
つまり肺NTM症は、
土ぼこりや水の細かな飛沫などを通じて、環境中の菌を吸い込む
という感染経路が重要と考えられています。
肺NTM症は人から人へうつる?
ここは結核との大きな違いです。
一般的な肺NTM症については、通常、人から人へ感染する病気とは考えられていません。
結核の場合には、活動性肺結核患者から排出された結核菌を周囲の人が吸い込むことによって感染する可能性があります。
一方、肺MAC症をはじめとする多くの肺NTM症では、基本的に環境から菌を獲得すると考えられています。
そのため、
肺MAC症だから家族にうつさないよう隔離する
といった対応は通常必要ありません。
ただし、NTMの一部では特定の患者集団における人から人への伝播が研究・報告されているものもあるため、「すべてのNTMについて人から人への伝播が絶対にない」とまで言い切るのは避けた方がよいでしょう。
肺NTM症にはどんな症状がある?
肺NTM症は、ゆっくり進行することが多い病気です。
初期にはほとんど症状がなく、健康診断などの胸部X線やCTで異常を指摘されて発見されることもあります。
症状が現れる場合には、
- 咳
- 痰
- 血痰
- 倦怠感
- 体重減少
- 息切れ
などがみられます。
肺NTM症では、菌が検出されたからといって必ずすぐに治療を開始するわけではありません。
画像所見、症状、菌種、喀痰培養検査、病状の進行などを総合的に評価して、治療開始の必要性が判断されます。
肺MAC症にはなぜ薬を何種類も使う?
薬剤師にとって肺MAC症で特に重要なのが、多剤併用療法です。
マクロライド感受性の肺MAC症では、一般に
マクロライド系薬+エタンブトール+リファマイシン系薬
を中心とした多剤併用療法が行われます。
マクロライド系薬として、
- クラリスロマイシン(CAM)
- アジスロマイシン(AZM)
などが用いられます。
エタンブトール(EB)、リファンピシン(RFP)などと組み合わせて治療します。
肺MAC症ではマクロライド系薬が治療上非常に重要な薬剤です。
ここで問題になるのが、マクロライド耐性です。
マクロライド系薬を不適切な形で使用して耐性化すると、その後の治療が非常に難しくなる可能性があります。
そのため肺MAC症では、
「クラリスロマイシンが効くからクラリスロマイシンだけ飲めばよい」
という治療ではなく、適切な薬剤を組み合わせることが重要になります。
クラリスロマイシンの添付文書には「NTM症」と書いていない?
クラリスロマイシンの添付文書を見ると、適応菌種として、
マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)
などが記載され、適応症として、
非結核性抗酸菌症
が記載されています。
つまりテレビや一般向けの情報で「NTM症」と呼ばれている病気は、添付文書では日本語の正式名称である「非結核性抗酸菌症」と表記されているわけです。
薬剤師としては、
NTM症=非結核性抗酸菌症
という対応を覚えておくと処方意図を理解しやすくなります。
クラリスロマイシン+エタンブトール+リファンピシンなら肺MAC症?
薬局では、
クラリスロマイシン+エタンブトール+リファンピシン
という処方を見ることがあります。
結核治療に似ていますが、クラリスロマイシンなどのマクロライド系薬が組み込まれていれば、肺MAC症などのNTM症治療の可能性を考えるきっかけになります。
ただし、処方内容だけから病名を断定することはできません。
薬剤師として重要なのは、NTM症では複数の抗菌薬を長期間使用すること自体が標準的な治療になり得ることを理解しておくことです。
通常の細菌感染症であれば、
「抗菌薬が3種類も出ている」
「何カ月も抗菌薬が続いている」
という処方には違和感があります。
しかし、肺MAC症では長期間の多剤併用療法が行われます。
イソニアジドが入っていないのはなぜ?
結核治療では、
- イソニアジド(INH)
- リファンピシン(RFP)
- エタンブトール(EB)
- ピラジナミド(PZA)
などが使用されます。
一方、肺MAC症では治療体系が異なります。
結核治療の中心となるイソニアジドやピラジナミドをそのまま肺MAC症の標準治療として使用するわけではありません。
肺MAC症では、
マクロライド系薬+エタンブトール+リファマイシン系薬
という組み合わせが中心となります。
同じ「抗酸菌」による感染症でも、
結核菌とMACでは有効な薬が違う
わけです。
肺MAC症はどのくらい治療する?
肺MAC症治療の特徴の一つが、治療期間の長さです。
通常の肺炎であれば抗菌薬の投与は比較的短期間ですが、肺MAC症では年単位の治療になることも珍しくありません。
重要なのは、「薬を飲み始めてから○年間」と単純に決めるのではなく、喀痰培養が陰性化してからの期間です。
肺MAC症では治療中も喀痰培養検査を繰り返し、治療効果を確認します。
一般に、培養陰性化後も少なくとも12カ月程度治療を継続することが推奨されるため、結果として治療期間が非常に長くなることがあります。
症状が改善したからといって自己判断で薬を中止しないことが重要です。
治療しても菌が消えないことがある?
肺MAC症では治療によって喀痰培養が陰性化しても、その後再びMACが検出されることがあります。
ここで注意したいのは、
「一度感染すると体内から絶対に菌を排除できない」
と単純に説明するのは正確ではないということです。
治療後に再び菌が検出された場合には、以前の菌による再燃だけでなく、環境中のMACに再び感染した再感染の可能性もあります。
NTMが土壌や水など身近な環境に存在することが、この病気を理解する上で重要なポイントです。
難治性肺MAC症に使われる吸入薬もある
現在は、従来の多剤併用療法だけでは十分な効果が得られない肺MAC症に使用される薬もあります。
その一つが、
アリケイス吸入液590mg(アミカシンリポソーム吸入用懸濁液)
です。
アミカシンをリポソーム化して吸入することで、肺へ薬剤を届ける治療薬です。
すべての肺MAC症患者に最初から使用する薬ではなく、一定期間の多剤併用療法を行っても十分な効果が得られない場合などに使用されます。
NTM症治療は「昔からある抗結核薬を長期間飲む治療」だけではなくなってきています。
リファンピシンとの相互作用に注意
肺MAC症の処方を調剤するときに薬剤師が特に注意したいのが、リファンピシンの薬物相互作用です。
リファンピシンは強力な薬物代謝酵素・トランスポーターの誘導作用を持つため、多くの薬剤の血中濃度を低下させる可能性があります。
肺MAC症は中高年者にみられることも多く、生活習慣病などで複数の薬を服用している患者もいます。
そのため新たにリファンピシンが追加された場合には、
併用薬を一通り確認する
くらいの意識が必要です。
また、リファンピシンはクラリスロマイシンの薬物動態にも影響するため、肺MAC症の治療は単純に「抗菌薬を3種類併用している」というだけではなく、薬物相互作用も考慮された専門的な治療です。
エタンブトールでは視力障害に注意
エタンブトールで特に注意すべき副作用が視神経障害です。
長期間使用する肺MAC症では、
- 視力低下
- 色の見え方の変化
- かすみ
- 見えにくさ
などの症状に注意する必要があります。
患者から、
「最近見えにくくなった」
「色が分かりにくい」
などの訴えがあれば、エタンブトールとの関連を考える必要があります。
長期治療になる肺MAC症では、薬を渡すだけでなく、副作用を継続的に確認することが薬剤師にとって重要になります。
結核とNTM症は何が違う?
結核とNTM症は、どちらも抗酸菌による感染症なので治療薬にも共通するものがあります。
しかし、同じ病気ではありません。
大きな違いを整理すると、
| 結核 | 肺NTM症 | |
|---|---|---|
| 原因 | 結核菌群 | 非結核性抗酸菌 |
| 主な感染源 | 感染性患者 | 主に環境 |
| 人から人への感染 | あり | 通常はない |
| 代表的治療薬 | INH、RFP、EB、PZAなど | 菌種によって異なる |
| 肺MAC症の中心薬 | ― | マクロライド系薬など |
| 治療期間 | 標準治療では6カ月が基本 | 肺MAC症では年単位になることも |
同じ抗酸菌症でも、感染対策も治療方法も大きく異なります。
「NTM症」という名前を見たら「非結核性抗酸菌症」と考える
NTMは、
Nontuberculous Mycobacteria=非結核性抗酸菌
の略です。
したがって、
NTM症=非結核性抗酸菌症
と考えて問題ありません。
そして、
NTM症 > 肺NTM症 > 肺MAC症
という関係を理解すると、ニュースやテレビ、添付文書に出てくる用語がつながります。
肺MAC症では、クラリスロマイシンやアジスロマイシンなどのマクロライド系薬、エタンブトール、リファンピシンなどを組み合わせた長期治療が行われます。
薬剤師にとっては、
「クラリスロマイシン+エタンブトール+リファンピシンという長期処方を見たら肺MAC症を思い浮かべる」
という視点を持っておくと、処方監査や服薬指導にも役立つでしょう。



