記事
認知症にMCTオイルが効く?
公開. 投稿者:認知症.この記事は約3分14秒で読めます.
1,768 ビュー. カテゴリ:中鎖脂肪酸
認知症に中鎖脂肪酸油(Medium-chain triglyceride:MCT)が効くという話。
脂肪酸といえば、エパデールみたいなω-3脂肪酸とか、何かと話題のトランス脂肪酸を思い浮かべますが、脂肪酸も結合の仕方や炭素鎖の長さによって様々な種類があります。
一般的に、炭素数2~4個のものを短鎖脂肪酸、5~12個のものを中鎖脂肪酸、12個以上のものを長鎖脂肪酸と呼びます(諸説あり)。
中鎖脂肪酸は工業的にはパーム核油や、ココナッツ油から製造され、少量ではあるが、母乳や牛乳にも含まれており、新生児での体温維持、生体防御などの生理的作用が指摘されている。
中鎖脂肪酸がグリセロールに3分子エステル結合した脂肪が中鎖脂肪酸油(MCT)として流通している。MCTは、ほぼ無味・無臭、無色透明で他の一般的な植物油に比べて低粘度である。また、発煙点が低い為、一般的な条件での炒め物や、揚げ物の調理には不向きな性質を有する。
中鎖脂肪酸とケトン体
MCTの消化・吸収過程は、長鎖脂肪酸からなる通常の油脂の場合と大きく異なる。
中鎖脂肪酸は鎖の長さが長鎖脂肪酸の約半分であるため消化吸収が早く、門脈から直接肝臓に運ばれて速やかにエネルギーに変わります。
中鎖脂肪酸は、β-酸化を受け、TCA回路で代謝されますが、処理能力以上に多量に摂取された場合には、肝臓にて生成されたアセチルCoAはケトン体に変換され、肝臓以外の組織、主に筋肉、心臓、腎臓等に運ばれて利用される(肝臓ではケトン体をアセチルCoAに変換する酵素がない)。また、脳におけるエネルギー源としても利用される。
中鎖脂肪酸と認知症
MCT摂取により多くのケトン体が生成される特徴から、古くから難治性小児てんかんの臨床現場で応用されている以外に、最近では、ALS、アルツハイマー病、パーキンソン病やある種のミトコンドリア障害等の脳神経変性疾患の症状改善に有用とする報告がある。
アルツハイマー病の根本原因は解明されていないが、さまざまな研究から、生活習慣病がアルツハイマー病発症のリスク要因として考えられている。アルツハイマー病は「3型糖尿病」ともいわれるように、脳のグルコース利用に障害がある。実際、Ⅰ型糖尿病患者での認知機能低下が認められ、MCT摂取による認知機能改善が報告されている。Ⅱ型糖尿病治療薬のメトホルミン投与やインスリン鼻腔粘膜から直接摂取等で、改善することも報告されている。そこで、血液脳関門を通過できるケトン体を代替エネルギーとして利用する試みがなされている。
脳神経変性疾患は、さまざまな症状や特徴を示すが、共通したメカニズムによって、ケトン体の効果を説明することが可能であると考えられる。それは、ケトン体は局所的な脳代謝低下に特徴づけられるある種の神経変性疾患に対して効率的なエネルギー源になるということ、さまざまな代謝ストレスに関連した酸化障害を減らすこと、ミトコンドリアの生物活性を高めること、そして、ケトン体は、いくつかの神経疾患にみられるピルビン酸脱水素酵素複合体Ⅰの障害があってもバイパスして利用されることが、その可能性として考えられる。
中鎖脂肪酸とケトアシドーシス
健常者における中鎖脂肪酸含有油脂摂取後のケトン体生成量と、糖尿病患者のケトアシドーシス発症時でのケトン体量には大きな差がある。健常者の場合、約6時間後には元に戻る。したがって、健常者の場合には問題にはならないが、重度の糖尿病でのケトアシドーシスを発症している場合には、留意が必要である。
中鎖脂肪酸と低栄養状態
高齢者における栄養学上の問題の一つに、低栄養状態が挙げられる。これはサルコペニアとも相互に関係し、高齢者の寝たきり予防の観点からも重要な問題である。また、低栄養状態は最近の疫学研究から、生活習慣病と共に認知症発症のリスク要因となると報告されている。
低栄養状態の改善のために、適度なたんぱく質摂取は必要であるが、過度な摂取はかえって腎臓への負担を増やし、逆に血中アルブミン低下も引き起こす場合がある。また、最近の研究から、高タンパク質の摂取は、骨格筋量の増加、筋力の増強に影響を与える一方で、持久力、ミトコンドリア機能や耐糖能、等の機能低下を引き起こす可能性があることが報告されている。したがって、低栄養状態改善のために、適切量のタンパク質と同時に、MCTを摂取することが重要である。さらに、MCTはLCTのような単なるエネルギー源にとどまらず、積極的なタンパク質合成を促す意義においても重要と考えられる。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
そんな薬剤師には、m3.com(エムスリードットコム)の、【PR】薬剤師のための「学べる医療クイズ」がおすすめ。